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その瞳に灯すのは_。  作者: 天之奏唄
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三章、分かってほしい

三章です。

少し重たい空気に包まれている二人ですが、今回で早速、何かが起きそうな予感…!!

優華とセナ、二人の意見の食い違いは、この先どう影響するのでしょうか??

 あれから数時間が経ったが、どうも、セナがとったあの態度が頭から離れなかった。

『……いらない、か。そう言われると、なんだか寂しいよ』

 あいにく表情までは伺えなかったが、あの姿が他人事のようにはどうしても思えなかった。

…自分の中の何かが、遠い所で傷ついたような気がした。

 ずっと、沈黙が続く。まるで、これから先も永遠に続いていくのではないかと恐ろしく感じるほどに。

 空気はどんよりと重く、晴れているはずの空に濃い雨雲が浮かんでいる気さえしてくる。

 そんな中、話を切り出したのはセナの方だった。

この空気をしんどく感じていたのは、彼女も同じだったのではないだろうか。

 …いいや、明るい性格をしている彼女なら、恐らくそのしんどさは私よりも遥かな重荷だっただろう。

 少し空気を読めていなかったな、と自重しながら、私はセナの話に耳を傾けた。

「優華はさ、感情の大切さがあまり分かっていないんじゃないかな」

 その言葉は、彼女にしてはどこか落ち着いた、そんな寂しげなものだった。

 そこで、ふと思った。セナと私の性格は、まるで正反対なんじゃないかと。『感情』を持たず基本的に暗い私と、『感情』豊かでいつでも明るいセナ。

 ……そんな彼女だからこそ、私の気持ちなんて微塵も分かりやしないだろう。

 そんなマイナス思考を繰り返していると、もう一度問いかけ直すように、セナが口を開いた。

「優華にとって、『感情』ってどんな存在なのかな…?」

 頭の奥に遠く響くような、そんな行方知らずな声音だった。

 私にとって感情とは何か…。

 単純そうに聞こえるその問いは意外にも複雑な思考を要するもので、すぐに答えが出るほど安易なものではなかった。

 ……でもまぁ、強いて言うのであれば_。

「正しい行動を阻止しようとする邪魔な存在、かな」

 私もまた足元へと視線を落とし、そう吐き捨てた。これほど強めに言っておけば、これ以上セナに根掘り葉掘り問われることはないだろうと、そういった考えの元だ。

「うんうん、確かにね。あれしようこれしようって決めてても、実際するとなると要らない気持ちがこみ上げてきてやる気を無くす…なんてよくある話だもんね、分かる」

 そう言って共感してくれるセナ。

 しかし、それは次に繋げるなめの建前でしかなかった。セナはその場で立ち止まって、静かに反論した。

「_それって、セナが感情に背を向けてるだけじゃないの」

 その声は、先程までとはひと味違った、確定的な自信を持つ真っ直ぐとしたものだった。

 私は止まったセナに合わせて少し前で止まって、視線を落とした。

 ぎゅっと拳を握る。

「……背を向けることの何が悪いのよ。期待しても裏切られ、悲しくなる。だったら期待なんてしない方がいいじゃん。そもそも、記憶に『楽しかった』『嬉しかった』なんていう感情があるから期待してしまうのよ。そんな感情さえなければ……」

「そう言う辺り、優華にはまだ大切な感情が残ってるみたいだね!良かった!」

 攻撃的に言葉を並べ立てる私を止めるように、セナは明るくそう述べた。

「逆があるなら、そのまた逆も存在する。そういう【怒り】の感情があれば、その逆に【優しさ】の感情だって有るんだよ」

 先程の言葉を詳しく説明するように、セナは優しくそう述べた。

「…………………………。」

 こんなにも当たり前で、こんなにも実感のわく説明をされたからだろうか。正論の壁に突き当たり、思わず私は押し黙ってしまった。

「…あれ、なんか落ち込んでる?ごめんそんなつもりじゃ_」

「知ってるしそんな謝らなくていいから!!」

 本人にそういう気がないのは理解っていたが、私は、押し黙っている私を嘲笑するように聞こえたその言葉についカッとなってしまった。

「……ごめん」

 直ぐに謝罪し、自分の非を認めた。

 …それ以上はもう、セナからの質問はなかった。

 こうして、またもや沈黙が生まれた。

 これも、私の醜い感情のせい。

 私の醜い、“負けず嫌い”のせい_。



 コツン、コツン、コツン、コツン……。

 蒼白い幻想的な光が照らす薄明るい洞窟の中、私達の足音は目立って反響していた。

 天井を見上げると、真ん中を避けるようにして垂れた乳頭からポタポタと水滴が滴っていた。

 私達が歩く道の両側には淡いエメラルド色に光る神秘的な"水"が流れている。乳頭から落ちた水滴が小川となって流れているのだろう。

 水面に当たった光が屈折や反射を繰り返し、水辺ならではの波光を壁一面に作り出している。

「スッゴいよねぇ~。ここの洞窟、なんか恐い人を封印してるみたいで……私も詳しくは知らないんだけど_」

 やはりこの重たい沈黙は居たたまれないのか、話を切り出したのはセナの方だった。

 始めこそ無理に話を切り出したセナだったが、さすがは彼女というべきか、話している内に、その声に含まれる明るさはどんどんと増していった。

 途中からは説明に入り、正直聞いているのが面倒になったが、ぐいぐいと押してくるその話は、嫌でもしっかりと脳内に収納された。

 昔、感情を無くしてしまった男がふらふらとこの洞窟に立ち寄り、心配して付いてきた者たちが入り口で男を待っていると、出てきたのは皆の知る男とはまるで別人だった_。

 別人 とはいい意味か悪い意味か。そこまで詳しくは話していなかったが、セナは、この洞窟は感情に対し何かしらの影響与えるのだということを伝えたかったらしい。

 しつこく私の感情について話したがるセナに少しばかり苛立ちを覚えたが、口に出してもまた沈黙が生まれ、その沈黙をセナが破り_と、同じことを繰り返すだけだと気づき、思い直した。

 …これが、セナの産まれ持つ性格なのだ。



 果たして、あれからどれくらいの間この変わらぬ景色を目に納めて歩いているのだろうか。

 坂道下り道があるわけでなければ、曲がり道があるわけでもない。黙々と視界に入るのは、天井からぶら下がる乳頭だけだ。

 …今さらだが、“乳頭”って、なんだか少し……やらしい言葉にも捉えられる気が……。

 気のせいだと言うことにしておこう。

「優華っ!あれっ!あれ見てっ!」

 やけに張り切ったセナの声で我に帰る。

 セナが指差す先は、この一本道の向こう。目を凝らして見るが、目に入るのは青白い波光を映す凹凸がかった天井と限りなく延びる暗闇だけで_

「あっ……」

 見えた。

 暗闇の中で、一点の光が孤独に存在していた。

 その光は、黄色…いや、青…赤…。時々ノイズを走らせながら、色が変化を繰り返している。

 それを見ていると、自然と意識が吸い込まれていくような感覚に襲われ、

 _刹那、鈍器で殴られたかのような鈍痛が、私の頭部を走り去った。

最後まで読んで下さり、誠にありがとうございました。

乳頭って書いてる時凄い違和感を感じてまして、でもまぁ間違った言葉じゃないのでやらしい意味で捉えないでください(笑)

コメント等、気軽に宜しくお願い致します。

それでは、また次回お会いしましょう。

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