8.誘拐犯は何者?
俺たちは、さっきも、コイツの話に唖然とさせられたけど、今のこの話は、その比じゃない。
地球で拉致するなら、地球のやり方で、って、いったいなんやねん!
それじゃ、まるで、自分は地球人じゃない、って言ってるようなもんやんか。
異星人とか、宇宙人とか、そういうもんやて言うんか? どっかの小説サイトで、異世界の話が流行っていたけど、まさか異世界人とでも言うんやないやろな。
冗談にも、ホドがあるやろ!
……と、俺は、無言でツッコミを入れる。けど、心の隅では、わかってた。もしかしたら、そういうこともあり得るんやないかと。
ほんの何分か前、突然この場に現れたことを、俺自身、ワープや、と言った。ワープなんて、それこそ、普通に考えたら、ありえへん話や。深く考えず、とっさの思いつきで言ったことではある。けど、家のカーポートを出てからの、おかしな状況があってこその言葉やった。
もちろん、コイツらが地球人ではない、ということを全面的に受け入れているわけじゃない。ただ、非現実的な出来事に次々に出くわす中で、この短い間にも、俺の中で、そういうもんに対する免疫が、少しついたみたいな気がするんや。
オカンと百合香は、どうなんやろな。
オカン、オカンのドッキリ説、やっぱハズレや。どう見ても、これは、現実やろ……
オカンは、青ざめた顔で、誘拐犯を睨みつけている。
そして、ふいに、オカンの中の小犬が、吠え出した。
「ちょっと、アンタ! さっきから、けったいなことばっか言うてるけどな、わけわからんこと言うて、ウチらを煙に巻こうとしても、そうはいかへんで!」
オ、オカン……
「アンタみたいなもんの言うことなんか、信用できるわけないやろ!」
オカンの背中が小刻みに震え始める。
「とにかく、はよ、おとうちゃんに会わせてえな! おとうちゃんが、無事かどうか、おとうちゃんの顔見るまでわからへん!」
今度は、誘拐犯が、オカンの剣幕に、動揺する。
「ワ、ワタシは、先ほど、拉致のときの状況を、正直にお伝えシマシタ。正直にお伝えスルことで、宮島圭介さんが、無事だということも、ワカッテいただけると思ったのデスが」
俺たちは、再びあっけにとられる。
「アンタ、アホか。そんなことで、誘拐犯の話、おいそれと信用すると思てたんか!」
俺と百合香は、うんうんとうなずく。
「し、しかし、コチラを信じていただかなくては……」
俺たちは、三人で、誘拐犯を睨みつける。
「実は、しかるべき時マデ、宮島美也子さんを宮島圭介さんに会わせるなと、上の者カラ言われておりマス」
俺たちは、ハッとして顔を見合わせる。興奮で、赤みがさしていたオカンの顔が、ふたたび青ざめる。
コ、コイツが、ボスやなかったんか? ただの、手先やったんか?
しばし止まっていたオカンの震えが、大きくなって復活する。それでもオカンは、唇をかんで、声をしぼり出した。
「そんなら、その親玉に言うたらいいやろ……」
「え?」
誘拐犯の反応に、オカンの声が大きくなる。
「ウチはな、アンタが信用できるかできひんかなんて、ホンマは、どうでもいいねん! ウチはただ、おとうちゃんに会わせて欲しいだけなんや!」
オカンの叫びに涙声が混じる。
「おとうちゃんにおうて、おとうちゃんが無事なこと、この目で確かめたいんや!」
オカンは、泣いたら負けや、とでもいうように、ぐっと唇をかんで、涙をこらえる。
「アンタも親玉も、人の子やったらわかるやろ。たとえ、アンタがホンマのこと言うてたとしても、自分の目で、おとうちゃんの無事を確かめたい、それが家族っていうもんや」
俺も百合香も、涙をこらえて、オカンと一緒に、誘拐犯を睨みつける。この際、コイツらが、人の子やないかも、っていうツッコミは無粋やな。
目の前の男が、黙り込む。
しばしの沈黙のあと、
「わかりマシタ」
男が、仲間の一人に、目で合図した。百合香の後ろにいた背の高い男が、男の方に歩み寄る。二人は、小声でなにやら、話し合っている。微かにもれ聞こえる言葉は、外国語のようだ。
俺の後ろに張り付いている男が、目の前のヤツと同じように黒いスーツを着ているのに対し、この背の高い男の格好は違う。襟付きの薄いピンクのシャツに、白いパンツを爽やかに着こなしている。コイツは、実行犯やないんかな。
少しして、背の高い男は、一人で、後ろのドアから出て行った。
男が、こちらに向き直る。
「スミマセンが、少し時間をクダサイ」
俺たちは、顔を見合わせる。ここで冷静にならな、話は進まへん。
「わかりました」
オカンが、小さくうなずく。男は、ホッとした顔をした。
「後ほど、上の者ヨリ、今回のことについて、話がありマス」
俺たちは、ぐっと息をのむ。
「その前に、ワタシのほうカラ、この国について、ご説明をしたいと思いマス。上の者の話を理解していただくタメに、必要な話デス」
俺たちは、再び、顔を見合わせる。それは、こっちも知りたい話や。コイツが、宇宙人か、異世界人か、決着をつけてもらおうやないか。
「それでは、場所を移しマスので、コチラへ」
俺たちは、目の前の男に従って、ガラスの自動ドアに向かう。
あっ、そや。俺はふと思い出して、ドアを出る前に、車のほうを振り返った。そこには、光のない、いつものカローラがあった。




