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ファミリー・トリップ・トラップ  作者: みずた わかば
第2章 未知の世界
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9.名前をめぐる攻防

 自動ドアをくぐると、ちょっとしたホールがあった。ホールの向かい側には階段、右側と左側にはドアがひとつずつ。

 男はその左側のドアに向かう。ドアの横のボタンを押すと、扉がすーっと横に開いた。男が中に入ると、センサーが反応してパッと明かりがつく。俺たちも、男のあとに続いて中に入る。

 中は、奥行きの長い、細長い部屋になっていた。部屋の真ん中に、大きなテーブルがある。


「どうぞ、お掛けクダサイ」

 俺たちは、男に促されて、テーブルの左側に三人並んで腰掛けた。オカンを真ん中に、左に俺、右に百合香。オカンの向かいにヤツが、その向かって左、俺の前にもうひとりの黒スーツが腰掛ける。


「遅くなりマシタが、まず、自己紹介をさせていただきマス」

じ、自己紹介? 誘拐犯が自己紹介て!

 俺たちは、再度あっけにとられる。百合香が、

「ちょ、ちょっと待って」

と言いながら、急いで、リュックのポケットから、メモ帳とペンを取り出す。たしかに、こっちとしては、少しでもコイツらの情報を集めといたほうがいいな。警察に、通報することが、絶対ないとは言い切れへんし。


 百合香の準備ができたのを確かめて、男は話し出す。 

「ワタシは、※△%□&◎#%△、と申しマス」

「は?」

「は?」

「は?」

俺たちの反応に、今度は、ゆっくりと、

「ワタシは、※△%□&◎#%△、と申しマス」

「は?」

「は?」

「は?」

ゆっくりしゃべっても、まったく聞き取れない。

 自分の名前だけは、コイツの母国語で、発音しているんやな。


 オカンが、ひとりでうなずきながら、

「アンタ、やっぱ、外国人やったんやな」

 外国人どころか、コイツ地球人でもないかもな、と、俺は、心の中でツッコミを入れる。が、声には出さない。ここでこんなツッコミ入れたら、ヤツらの説明の流れ、おかしなるもんな。俺は、話の流れを読める男や。

 そやけど、オカンは、平気でその流れを無視する。

「顔だけ見てたら、日本人やのにな」

 そうや。それが、俺の中でも引っかかっていた。多少濃い目の顔立ちではあるが、目の前の男ふたりは、黙っていたら、完全に日本人。もし、コイツらが地球人やないとしたら、こんなに日本人づらしているなんてことあるか? 俺かて、宇宙人が、銀色の全身タイツ野郎やとは思てないけど、ここまで、俺らと変わらへんというのもな。


 男は、即座に、流れを戻す。

「そのコトについては、アトで、お話しシマス。まずは、自己紹介を続けマス」

「あの~、トマなんとか、ですよね」

男の名前を、なんとかカタカナ表記しようと、百合香が問いかける。

「いえ、違いマス。※△%□&◎#%△、デス」

「トゥマなんとか?」

「いいえ、※△%□&◎#%△、デス」

しびれを切らしたオカンが、

「もういいやんか、トウマで。トウマにしとき」

「し、しかし、ワタシは、※△%□&◎#%△……」

「そんなん、何べん聞いても、聞き取れへんし、言われへんわ。なんたらとうまっていう、めっちゃ男前の俳優おるで。たしか、ジャニーズの。それと一緒の名前や。文句ないやろ」

オ、オカン……

 男は、あきらかに不満の表情をしていたが、やがて、あきらめたように、

「わ、わかりマシタ」

トウマの声に力がない。

 オカン、すごいな。コイツらの命名権は、もはやオカンが握っている。


「そんで、そっちの人は?」

オカンに視線を向けられて、もうひとりの黒スーツが、気のせいか、ギクッとしたように見えた。

「ワタシは、◎#%△※&%□#、といいマス」

これ以上ないっていうくらい、ゆっくりしゃべったのに、

「は?」

「は?」

「は? タ、タキ?」

「いえ、違いマス。◎#%△※&%□#、デス」

「タッキなんとか?」

百合香の問い返しに、

「いえ、ワタシは……」

男が、もう一度名乗る前に、オカンが、ポンと手を打った。

「そや、タッキーや。アンタは、タッキーにしとき。めちゃくちゃ男前のアイドルと一緒やで」

「は、ハイ」

タッキーは、早々に白旗を揚げる。


「さて、では、次に……」

トウマが、話を進めようとすると、

「待って、もう一人は? あと一人いてたやろ?」

と、百合香。

 おい、百合香、もう一人の名前聞いてどうする? どうせ、オカンが、呼び名つけるだけやで。そう言ってやろうかと、一瞬迷っている隙に、トウマが、

「彼は、※ビといいマス」

「レビ?」

「ロビ?」

「ラビ?」

三人三様ではあるが、なんとか聞き取った。名前、短いしな。

「ラビって、短い名前やね」

百合香が、そう言いながらメモをとる。

 前言訂正。コイツらの命名権は、我が女性陣が握っている。

「※ビは、愛称デス。彼の名前は、非常に長いので、※ビと呼んでいるノデス」

結局、呼び名やったけどな。


「さて……」

トウマが、話し始めると、

「ほな、歳、聞こか」

と、オカン。オ、オカン、合コンじゃあるまいし。

「自己紹介いうたら、名前と歳ぐらいは言うもんやで」

「はあ。ワタシは40才、コチラの◎#%△※&%□#は33才、※ビは28才デス」

トウマは、素直に答える。百合香は、すかさずメモをとる。

「ほんま? アンタら、(わこ)う見えるな。うらやましいわ」

オカンかて、若く見えるで、45才ぐらいには。と、心の中でボケる俺。オカンもオカンなら、俺も俺やな。反省。


「さて……」

今度こそ、トウマは、話を先に進める。

「この星の名前デスが、%△※□◎、と言いマス」

「えっ?」

「えっ?」

「えっ?」

俺のはもちろん、『この星』に、反応しての『えっ』やけど……

「テ、テト?」

と、百合香。

「%△※□◎、デス」

「テ、テテトゥトゥ?」

「違いマス。%△※□◎、デス」

「ウチも、テテトトに聞こえたで。百合香、テテトトって書いとき」

「うん」

「ち、違いマスッ。%△※□◎、デス」

 トウマは、必死に否定するが、一度、テテトトだと思って聞くと、もうそうとしか聞こえない。もちろん、トウマが発音すると、テテトトなんて、可愛らしい感じのものではないが。


「それより、アンタ、今、この星って言うたけど、ここ地球やないんか?」

オ、オカン……オカンも、ここが地球やないってこと、認めるんか?

「ハイ」

「そうか、アンタらの名前、英語でも、中国語や韓国語でもなさそうな、けったいな名前やもんな」

 オカン? 世界には、英語、中国語、韓国語以外にも、山ほど、いろんな言語があるで。そっちやとは思わんかったん?

 オカンの思考回路には、時々ついていかれへん。けど、オカンもとうとう、コイツらが、地球人やないと認めるんやな。

「それで、ここは、どの辺なん? イスカンダルより遠いんか?」

イスカンダルて、それこそ架空の星やないか。そもそも、もし、そこより遠いって言われたって、それがどれほどの遠さかわかるんか。

 俺は、満を持して、気になることを、トウマに確かめる。

「ここは、俺たちの宇宙のどこかの星、ってことでいいんですか?」

 トウマは、俺のほうを向く。

「イイエ、ここは、アナタたちの住む宇宙では、アリマセン」


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