10.頭の痛い話
オカンは、ポカンとして俺とトウマを見比べる。さすがに百合香も唖然としている。
「ウチらの住む宇宙やないて、いったいどういうことなん? 龍之介、アンタ、なんか知ってるんか?」
「知らんよ。なんか、ちょっと予感してただけや」
そうや。俺かて、実はさっぱりわからん。小説では、ようあることやから、そんなこともあるかと、なんとなく思てただけや。こうやって、実際に、ここは俺らの住む宇宙やないと言われても、まったく実感が湧いてこない。
「この星については、ワタシからお話シマス」
トウマが話を引き取る。
「この星があるのは、アナタたちの住む宇宙とは別の宇宙デス」
「別の宇宙? 宇宙って、一個やあらへんの?」
と、驚く百合香。
「ハイ。ワタシも、専門的なことはわからないのデスが、アナタたちの宇宙が誕生したとき、コチラの宇宙も同時に生まれたと聞いてイマス」
「宇宙の誕生て、ビッグバンですよね?」
俺の確認に、
「ハイ、そうデス。その時に、この星がある宇宙も生まれました。
今カラ千年ほど前になりマスが、&□#%△※□#、という物理学者が、コチラとは別次元の宇宙、つまり、アナタたちの宇宙が存在スルことを発見しマシタ」
千年も昔に!?
「そして、今カラ二百年ほど前、コチラとソチラの宇宙の、次元の狭間というものを、%△※〇#□&#、という学者が発見しマシタ。彼は、さらに、この狭間を通レバ、ふたつの宇宙を行き来デキルと考えマシタ」
オカンが、ポカンとトウマを見ている。たぶん、話についてきてないな。俺かて、頭が痛い。
「しかし、狭間を通る方法を発見し、実際に、我々が、初めてソチラの宇宙に渡ったのは、ほんの二十年ほど前デス。その時到着シタのが、地球デシタ」
「えっ? 地球に? 宇宙て、めちゃめちゃ広いのに? たまたま地球に?」
と、百合香。
「最初に狭間を越えた者は、ソチラの宇宙のドコに着くかを予想できなかったため、命を捨てる覚悟で旅立ったそうデス。しかし、地球に到着し、それが偶然ではなかったことを知ったのデス」
「偶然じゃない?」
「偶然じゃない?」
と、俺と百合香。
「ハイ。調査の結果、この星、%△※□◎と地球が、非常に似ていることが分かりマシタ。そして、%△※□◎と地球は、双子星だという結論を導いたのデス」
「双子星……」
「双子星……」
俺と百合香が、その言葉をかみしめていると、
「ちょっと、よろしいか?」
と、オカン。な、なんやオカン、的外れなこと言わんといてや。
「この星のこと言うときな、アンタも『テテトト』て、言うてくれへんか」
「えっ」
トウマの顔に戸惑いが広がる。
「こっちの、なんやわからん言葉でしゃべられると、ややこしい話が余計ややこしなって、訳わからんようになるねん。アンタやったら、テテトトて発音できるやろ」
「はあ、しかし……」
「自分の星、違う名前で呼ばれたら、いい気せんのはわかる。そやけど、これは外国語やと思たらええねん」
「外国語?」
「そや。ウチらの国もな、日本て名前があるけど、外国の人が、ジャパンて呼んでも気にならへん」
「な、なるホド」
そやな、それも道理やな。たしかに、こっちの言葉で発音されると、頭ん中、混乱してくる。
「わ、わかりマシタ」
トウマは誘拐犯のくせに、さっきからオカンに牛耳られている。
「ということは……」
百合香が、考え考えゆっくり話す。
「地球とテテトトが双子星やから、宇宙の狭間を通ってつながった、っていうこと?」
「そうデス。研究者たちは、そう考えマシタ」
「なんで、そんな双子星みたいなことになったん?」
百合香の質問は続く。
「そのことについては、まだ、よくわかってイマセン。
ただ、次元の狭間が影響しているのではないか、というのが、有力な説デス。
コチラかソチラかどちらかの宇宙で、狭間の入り口近くで、新しい星が生まれようとシタ、そして、生まれかけていた星が、なんらかの狭間の影響を受け、二つに分割シタ、そのひとつが、狭間を通ってもう一方の宇宙に渡った、という説デス。
この説に立てば、この星、テ、テ、テテトトから、狭間を抜けると地球に着く、ということを説明しやすくなりマス」
百合香がちょっと考え込む。その隙に俺は、聞きたかったことを聞く。
「地球とテテトトって、そんなに似ているんですか?」
「ハイ。まず、大きさがほぼ同じデス。陸と海の割合も地球と同じデス。さすがに大陸の形まで同じではアリマセンが、北半球に陸地が多いのも同じデス。
さらに、自然環境も非常に似てイマス。まだ詳しい調査はしてイマセンが、動物、植物なども似ているものが多いようデス。特に驚くべきは、人類デス」
そう言って、トウマは俺を見る。
「ワタシたちは、非常に似てイマス。調査の結果、遺伝子レベルで、同じ生命体だということが分かりマシタ。あまりにも同じなノデ、自然の進化とは別の、何らかの作用が働いたのではないか、と考える研究者もイマス。ですが、まだ、その点については、よくわかってイマセン」
俺たち三人は、ほうっとため息をつく。地球の外に、俺たちと同じ人間の住む星があったんやな。
百合香が質問を再開する。
「あたしらのおる地球は、太陽の惑星やで。太陽があるから、今みたいな、自然の豊かな星になったんやで。こっちにもそういうのがないと、地球に似た星にならへんのと違う?」
「実は、コチラにも、太陽と同じような星があるのデス。テテトトも、その星の惑星デス」
「えーっ、そんな偶然あるん?」
「宇宙には、非常にたくさんの恒星がありマス。偶然ということもあるかもしれマセン。しかし、太陽もまた、双子星として誕生したのではないか、と考える者もイマス。
テテトトの自転の速さや自転軸の傾き、公転のシカタなども、地球とほぼ同じデス。そのため、コチラの暦も地球とほぼ同じになってイマス」
オカンが、こめかみの辺りをもんでいる。オカンには、そろそろ限界かもな。
「そしたら、テテトトと地球は、ほんまに双子みたいに一緒ってこと?」
百合香の質問は、終わらない。
「星としては非常に似てイマス。ですが、別々の星であるため、違いもありマス。言わば、育ちの違いデス。例えば、テテトトの人口は、地球の半分ほどしかアリマセン。ですが、国の数は多い。つまり、規模で言えば小さな国が多いということデス」
へえ、そうなんや。
「このように、ひとつひとつ例を挙げたらキリがアリマセンが、とくに大きな違いは、文明の差デショウ。テテトトでは、地球に比べると、とくに科学技術の分野で、何年も先を行く発展を遂げてイマス」
そうやろな、そやから、俺ら、ここまで連れて来られたんやもんな。
そんなふうに、今俺らが置かれた現実を思い出していると、コンコンとノックの音がした。
ドアが開く。
ラビが戻ってきた。




