3.声を聞かせて!
オカンが、嬉々として受話器に飛びつく。
「もしもし、おとうちゃん!」
が、一瞬にして、オカンの顔色が変わる。両脇でオカンを見守っていた俺と百合香に、その顔色が伝染する。
「……え?……あ……はい、そうです……え?……はい……龍之介に……」
オカンの青ざめた顔が、俺のほうを向く。
「もしかして、さっきのヤツか? 俺、替わるわ」
とっさに、俺はそう言っていた。オカンは、素直に受話器を差し出す。
「もしもし、龍之介です」
「あ、龍之介くんデスネ。先ほどは失礼シマシタ。ケータイのバッテリーが、切れてしまいマシテ」
そういうことやったんか。それで、公衆電話からかけ直してきたというわけか。にしても、コイツ、意外に礼儀正しいぞ。詫びを入れるなんて。
おっと、だまされたらアカン。コイツは、オトンを誘拐した凶悪犯やないか。もしイタズラ電話やったとしても、こんなイタズラ、ゲスの仕業や。そもそも詫びを入れるところが違うやろ。
俺は、声を張る。
「オトンは、無事なんですか? オトンと話をさせてください!」
横から話を聞き取ろうと、オカンが、俺の持つ受話器にぐいぐい耳を押しつけてくる。
ちょ、ちょっとオカン、やめてくれ。また聞き漏らしてしまうやないか。
「心配イリマセン。宮島圭介さんは、無事……」
相手が話し始めたところで、今度は、百合香が、俺の腕をぐいぐい引っ張る。な、何や、百合香。今、大事なとこ……
「ちょっと、受話器貸して!」
百合香のただならぬ勢いに、俺はつい、持っていた受話器を、百合香に渡す。
「オ、オイ、百合香、何すんや!?」
百合香は、なにやら電話機のボタンを操作して、受話器をガチャンとフックの上に置いてしまった!
「ああーっ、何すんねんっ!」
「スピーカーホン」
百合香はそう言いながら、いつの間にか持っていた、電話機の子機を俺に差し出した。
「子機のスピーカーホンに切り替えた」
「え?」
俺は、わけがわからないまま子機を受け取る。
「モシモシ、龍之介くん」
俺の目の前にある子機から、誘拐犯の声が聞こえてくる。な、何やこれ? ホンマに、子機が、スピーカーになったみたいや。
そうか、これで、オカンと百合香も、話が聞けるということか。百合香、こんな機能、よう知ってたな。
「こっちの声も、ちゃんと向こうに聞こえるんか?」
「聞こえてマスヨ、龍之介くん」
電話の向こうから答が返ってきた。
「ミナサン、おそろいのようデスネ。あまり時間がありマセンから、ミナサンと一度に話がデキルのは、都合がイイデショウ」
俺たちは、俺の手の中の子機に集中する。
「宮島圭介さんは、無事デス。アナタたちが、ワタシたちの指示に従うカギリ、宮島圭介さんの安全は保証されマス」
俺たち三人は、顔を見合わせる。俺たちが言うことを聞かなければ、オトンの安全は保証しないということか。
とにかく、オトンの無事を確保せなアカン。
「オトンの声、聞かせてもらえませんか?」
「ソレはデキマセン」
それを聞くや、
「なんで、オトンの声、聞かせられへんのですか!」
「アンタ、ホンマに、おとうちゃんを誘拐したんか!」
「お父ちゃんの声聞かへんかったら、無事かどうかわからへんやん!」
俺たちは、一斉に反撃の声を浴びせる。
「ちょっとミナサン!」
スピーカーホンから聞こえる声が、ワントーン上がる。
「一度に話をされても、何を言ってイルのか、サッパリ、聞き取れマセン。一人ずつ話してクダサイ!」
な、なるほど。
俺たちは、今度は、一斉に口をつぐむ。オカンと百合香が俺を見る。俺は、左手の子機に向かって、話しかける。
「なんで、オトンの声、聞かせてもらわれへんのですか?」
「宮島圭介さんは、今、ココにイナイので、話がデキマセン。ですが、無事なのは、間違いアリマセン。ワタシたちを信用シテクダサイ」
誘拐犯を信用しろと言われてもな……




