表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
27/31

26.待つ家族

 俺たちは車に駆け寄る。

「発車の準備して待つで」

 二人に声をかけて、俺は運転席に乗りこむ。オカンは助手席に、百合香はその後ろに乗り込んで、バタンとドアを閉める。

「あっ」

百合香が、声を上げる。

「内側からは開けられへんようにしたって、トウマさん、言うてたよね」

百合香が、閉めたドアをもう一度開けてみる。

「開いたわ」

俺とオカンも、それぞれドアが開くのを確かめる。今は、その細工、作動してないみたいや。


 俺たちは、オトンが来るのを今か今かと待ち受ける。座席に座ったまま、首を後ろにむけて、部屋の扉を見つめ続ける。

 オトンは、なかなか来ない。

「まだかな」

「遅いな」

「まだ来へんな」

「遅いな」

 俺たちの口からは、そんな言葉しか出てこない。そんな中、百合香が、

「あっ、そや」

何かを思い出したようにつぶやく。俺は気になって、

「何や? 百合香」

「えっ、まあええわ」

そう言うと、また、そわそわと後ろを向いた。

 なんや、百合香、いいんなら、紛らわしいこと、言わんといてえな。それより、今は、とにかくオトンや。


 俺たちは、部屋の扉を見続ける。

 途中でオヤダマたちに見つかったんやないやろな。考えたくはないけど、そんな不安が、だんだんと募っていく。胸が、痛いくらいバクバクとし始める。

 俺は、腕時計を見る。車に乗ったのは、日本時間で13時26分。今は、13時35分。もう少しで10分が経過する。やっぱり、遅すぎるんと違うか。


 その時だ。

「お父ちゃん!」

真っ先に声をあげたのは百合香。ガラスの扉が開いて、ラビとほぼ同時に、オトンが飛びこんできた!

「オトン!」

「おとうちゃん!」

 俺は、素早くエンジンをかける。

 オトンが、俺の後ろの席のドアを開ける。

「おとうちゃん!」

「お父ちゃん!」

 座席にすべり込むオトンを迎えながら、オカンと百合香が、もう一度歓喜の声を上げる。

「おう!」

 オトンが、大声でそれに応える。

 俺は、すでに発車の体勢に入っている。

 ラビが運転席の窓の向こうで、大声を上げる。

「さようなら! 気をつけて!」

「ありがとう!」

「おおきに!」

「ありがとう!」

 オトンとオカンと百合香が、口々に礼の言葉を叫ぶなか、俺はゆっくりとアクセルを踏んだ。




 少しでも車が進めば、狭間に入る――俺は、そう思いこんでいた。

 ゲートを開くための超音波がどこから出ているのかわからんけど、うちのカーポートを出発したときも、そうやった。すぐに狭間に突入して、俺たちは闇に包まれた。

 けど、今は、車が進んでも何の変化もない。

 目の前の壁に向かって、ただ部屋の中を、最徐行で進んでいるだけ。

 もうアカン! 俺は壁にぶつかる寸前でブレーキを踏んだ。


 窓の外に目をやると、ラビが窓の向こうで、驚愕の表情を見せている。そして、訳が分からないとでもいうように、首をしきりに横に振っている。

 俺たちは、声も出せず、ただ呆然とする。

 いったい、どうなっているんや。俺らは、地球に帰られへんのか……


 その時だ。

「ラビっ! 何をしているのですかっ!」

 車の中でも聞こえるような、オヤダマの大声が部屋中に響き渡る。ラビがハッと扉の方に目をやったのに続き、俺も後ろを向く。

 トウマとタッキーが部屋に駆け込み、そのすぐ後ろからオヤダマがやってくるのが見えた。


 オヤダマたちが車のそばまで来ると、トウマが、オトンの座る後部座席のドアを、おもむろに開けた。

「宮島圭介さん、どうぞ車を降りてください」

それから、車内をのぞきこんで、

「みなさんも、どうぞ降りてください」

 俺たちは、黙って顔を見合わせる。

 もう、どうにもならへんのはわかってる。けど……けど……せっかく、みんなで、うちに帰れると思ったのに……

「くそっ!」

 俺は、思わずこぶしをハンドルにたたきつけた。クラクションが、『プ――――ッ』と、物悲しく響き渡る。


「龍之介、降りよ」

 オトンに言われて、俺は、しぶしぶドアを開ける。座席から立ち上がって外に出ると、ラビが泣きそうな顔を俺に向けた。

「龍之介くん、申し訳ありません」

 震える声で、俺に謝る。違う、ラビのせいやない。ラビだけが、俺らの味方をしてくれたんや。ラビの泣きそうな顔を見たら、俺も泣けてきそうになる。唇をかんで、涙をこらえる。


 オカンと百合香も、よろよろと車を降りる。ちょうどその時、部屋の扉が開いて、さっきの部屋にいたもうひとりの男が、急ぎ足で入ってきた。

「よかった、間に合いましたね」

男は、ほっとした表情を見せる。

 そして、ラビに向かって、

「トイレからなかなか戻らないので、気になって様子を見に出たのですよ。そしたら、ボックスに乗って別棟に向かう、ラビと宮島圭介さんが見えたのです。急いで母屋のリモートコントロール室に向かい、超音波発生装置の稼動を停止させました」

 男の口調に責める感じはないが、ラビは、俺に見せた泣きそうな顔とは打って変わって、男をキッと見据えている。


「ラビ、とんでもないことをしてくれましたね」

男とは違い、オヤダマの口調は、ラビを強く責めている。オトンが、思わず、

「やめてください! ラビさんは、私の気持ちをくんで、助けようとしてくれたんです」

オヤダマは、オトンを冷ややかに見る。

「それが、とんでもないことだと言うんですよ。とにかく、場所を移して話をしましょう。トウマ、会議室へ」

「は、はい。では、みなさんこちらへ」


 部屋の一番奥の壁際にある車から、扉のところまでは、けっこう距離がある。トウマの後ろを、オトン、俺、オカン、百合香は、重い足取りでついていく。

 扉を抜けて、トウマは、ホールの左手の部屋に向かう。会議室は、最初にトウマたちと話をした部屋だった。


 俺たちが部屋に入りかけたとき、向こうの階段からイトサンが足早に降りてきた。オヤダマがそれを見て、

「大丈夫なのかね? わざわざ来なくてもかまわないが」

「大丈夫です」

イトサンはきっぱりと言う。


 部屋に入ると、俺たちは、再び机の左側に腰掛けた。今度は、オトンも一緒に。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ