18.最大級の驚き
トウマが、あわてた様子で口をはさむ。
「も、申し訳ありません。そのメモリーカードは、身代金代わりではありません」
オカンが、ポカンとトウマを見る。なんとなくやけど、俺は、そんな気はしてたけどな。
「そのメモリーカードは、宮島圭介さんに持って来るよう頼まれたものです」
「えっ?」
「えっ?」
「えっ?」
トウマが、本当に申し訳ないという顔をオカンに向ける。
「ど、どういうことやねん?」
オカンが、混乱した表情でトウマを見る。
「宮島圭介さんを拉致し、今回の事情をお話したあと、テテトトに持って行きたいものがあれば、小さいものなら宮島美也子さんから預かってくると申し上げたのです」
「そ、そやけど、アンタそんなこと一言も……」
オカンの口調が強くなる。
「も、申し訳ありません。私は、少々調子に乗っておりました」
「ど、どういうことやねん?」
オカンの混乱は続く。俺かて、わからん。トウマが調子に乗ってたってどういうことやねん?
「宮島圭介さんをこちらにお連れするにあたって、説得してお連れするのは、難しいと考えました」
そりゃそうやろな。けど、ボスの命令は聞かなあかん、そういうことやな。
「そのため、拉致という方法をとることにし、先ほども申し上げましたが、映画などを参考に、いろいろとやり方を研究したのです」
うん、そんなこと言うてた。
「研究をしているうちに、私は、映画のように華麗に拉致をやり遂げるということに、こだわりを持ってしまったようです。拉致という酷い人権侵害をしようとしていたにもかかわらず、有体に言ってしまえば、おもしろがっていたところがあるのです」
たしかに、ギャングの服まで用意したんやもんな。そのギャングの格好のままのトウマが、真っ赤になって、視線を落とす。
「誘拐には、身代金などの要求がつきものです。宮島美也子さんに、ただ車に乗ってもらうだけではなく、身代金を運んでもらうことで、誘拐らしくしようと考えました」
トウマの顔が耳まで真っ赤になっている。
「はじめは、金銭の要求を考えていたのですが、適当な金額を決めるのが難しいところでした」
ま、そやろな。うちが払える金額やったら、誘拐の身代金らしくならへんし。
「宮島圭介さんがメモリーカードを持って来てほしいとおっしゃたので、とっさにそれを身代金代わりに利用しようと思いついたのです」
トウマが、気の毒なくらい縮こまっている。
トウマが話し終わると、オヤダマは、にこにことこちらを向く。
「そういうことのようですな。そのメモリーカードは、私たちには必要のないものです。しかし、宮島圭介さんがお望みのものなら、お渡しいたしましょう。ラビ、お預かりしなさい」
「は、はい」
ラビが、一歩オカンに近づく。オカンは、ラビをにらみつける。
「アカン! これは、おとうちゃんの大事なもんや。ウチが直接わたす」
オカンは、握っていたメモリーカードのケースをカバンにしまい、そのカバンをぎゅっと胸に抱きしめた。
ラビが困った顔をオヤダマに向ける。オヤダマは、
「そうおっしゃるなら、それでもいいでしょう。宮島美也子さんが、私たちの頼みを聞いてくだされば、それも叶います」
聞き捨てならん。頼みを聞かんかったら、オトンに会わせへんということか。
「頼みて、ウチとおとうちゃんに離婚せえいう話ですか?」
「そういうことです」
「ウチは、離婚なんかしません」
「それは、困りました」
そやけど、そもそもなんで離婚なんや? 百合香が、その疑問をオヤダマにぶつける。
「なんで、お父ちゃんとお母ちゃんが離婚せなあかんのですか? ちゃんと答えてください」
オヤダマが、百合香のほうを向く。にこやかな笑顔のまま、
「それは、宮島圭介さんと、ここにいる私の娘、イトサンが結婚するためですよ」
「………………」
「………………」
「………………」
驚きで、言葉が出ない。
今朝、トイレに行くために目が覚めてから、ずっと驚きの連続やったけど、これは、最大級の驚きや! ここが俺らの住む宇宙やないやの、ワープまがいの方法でここに連れられてきただの、そんなことより、これは、もっとわけわからん驚きや!
気がつくと、俺は、イトサンを凝視していた。
イトサンは若い。たぶん二十代。それに美人や。細面で色白の美人。しかも、サンボンのナンバー2の大臣の娘やで。
その愛娘を、拉致して連れてきた地球のオッサンと結婚させるなんて、何考えてるんや、オヤダマは! とんだイカれた野郎やで。
「ちょっと、トウマさん、この翻訳機、調子悪いで」
オカンが、唐突に話し出す。
「えっ?」
オカンの方を向いたトウマに、
「オヤダマさんの言うてはること、なんかへんな風に聞こえたわ。おとうちゃんが結婚とか」
オ、オカン……
トウマは、またも、申し訳なさそうに答える。
「自動翻訳装置は、正常に作動してイマス。大臣がおっしゃったのは、宮島美也子さんが、お聞きになった通りデス」
「う、うそや……そんなこと、ありえへん……」
オカンは、再び声を失う。代わりに百合香が声を上げる。
「なんで! なんで、お父ちゃんとイトサンさんが結婚するん? イトサンさんが、お父ちゃんのこと好きになるとかあるわけないし」
これまでずっと無表情だったイトサンが、ちょっとびくっとして百合香を見る。百合香は、イトサンをにらみつけている。
「百合香さん、落ち着いてください」
オヤダマが、相変わらずにこやかに、百合香に話しかける。
「ちゃんと説明しますよ。私も、あなた方にわかっていただくことは、大切だと考えています。ですから、きちんと説明させてもらいます」
俺とオカンと百合香は、向かいのソファに座るオヤダマに目を据える。
とりあえず、どんな理由をほざくか、聞いてやる。オトンとイトサンを結婚させるなんてキテレツな考えに、まともな理由があるとも思えんけどな。たとえ、それなりの理由があったとしても、俺は認めん。俺らは、四人で日本に帰るんやから。




