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17.大ボス、登場!

 扉が、すーっと開くと、目の前には、大きな窓のある明るい部屋が広がっていた。

 ラビが、扉近くに立っていて、俺たちを迎え入れた。ラビの横には、もうひとり知らない男が立っている。オトンと同じくらいの年恰好の男だ。

 部屋に足を踏み入れると、左奥の一角に、カウンターがあるのが目に入る。そこに年配の男と若い女が座っていた。とっさに、オヤダマ大臣とイトサンだと判断する。

 オヤダマとイトサンは、俺たちを見ると、おそらく自動翻訳装置だろう、イヤホンを耳につけて、おもむろに立ち上がった。そして、部屋の中ほどにある大きなソファにゆっくりと移動する。


「宮島美也子さん、龍之介くん、百合香さんですね。どうぞ、そちらへかけてください」

 大臣自ら、向かいのソファを指し示し、着席をうながす。あれっ、なかなかの客人扱いやな。

 俺たちは顔を見合わせる。それから、トウマのほうを向いて、トウマがうなずいたのを確認して、そろそろと指されたソファへと移動する。

 オカンを真ん中に、俺が奥、百合香が手前に座る。トウマとタッキーは、俺たちのソファの左右にひとりずつ、まるで見張りでもするように立つ。


 俺は、オヤダマたちが座る向かいのソファへ目を向ける。向かいのソファと言っても、五メートルほども間を空けていて、俺たちを寄せ付けない意図を感じるけどな。俺は、厳しい視線をオヤダマに投げかける。

 オヤダマ大臣は、おそらく六十手前といったところだろう。短髪にかなり白髪が混じっている。ベージュのスラックスに、アロハのような、幾何学模様のついたシャツという服装。

 オヤダマは、俺たちに、にこやかな笑顔を見せる。その笑顔を見て、俺は、日本にもよくいる政治家を思い出した。マスコミのカメラや有権者を前に見せる、食えない笑顔の政治家を。


 オヤダマから少し離れて座るイトサンは、無表情だ。なんとなく、将来、二世議員にでもなりそうな、やり手の娘、というのを想像していた俺は、イトサンを見て、ちょっと意外な気がした。

 トウマをはじめ、俺が見た数少ないサンボン人は、日本人を濃い目にした顔立ちだが、イトサンは薄い。イメージで言うと昭和の和服美人。今は、青いロングスカートに、ふわっとした白いブラウスという格好やけど。華奢なせいもあって、見た目だけで判断すると、やり手というより、おとなしい感じ。


 俺の観察は、オヤダマの言葉で中断される。

「私は、サンボンで医療技術大臣をしている、オヤダマという者です」

 俺もオカンも百合香も何もこたえず、ただじっとオヤダマを見る。俺たちの視線は厳しいはずやけど、オヤダマは、にこやかな笑顔をくずさない。

「トウマから、いろいろ話を聞いているでしょうから、ここは単刀直入に本題に入らせてもらいますよ」

 オヤダマの笑顔とは裏腹に、一気に部屋の空気がピリリと張りつめる。

 俺の中の恐怖も、一気にマックスになる。心臓がドクドクと痛い。今にも、恐ろしい言葉が発せられるであろうオヤダマの口元を、俺は睨むように見つめる。


 オヤダマの口が開く。

「宮島美也子さんに、ここに来ていただいたのは、宮島圭介さんと離婚していただくためです」

「…………」

「…………」

「…………」

 な、何やそれ? 意味がまったくわからんぞ。

「人体実験に、離婚する必要があるんか?」

 俺は、疑問を口に出していたらしい。今、この部屋にいる者たちの視線が、俺に集まる。

「何、人体実験て?」

 百合香が、代表して俺に尋ねる。

「いや、あの、それは、その……」

「龍之介くんは、私が、宮島圭介さんを、医療実験に利用しようとしていると、考えているようですね」

 オヤダマは、俺が漏らした言葉の意味を理解したらしい。

「いえ、あの、それは……」

「私たちは、そのような野蛮なことはしませんよ」

 ち、違うんか? その言葉、信じていいんか?

「ホンマですか?」

「はい」

 俺の中の恐怖が、プシューとしぼんでいく。とりあえず、俺の最大の心配は、杞憂だったと知ってホッとする。そやけど……

 俺は口に出すのを控えたのに、百合香は、はっきりとオヤダマに突きつける。

「そやけど、実際に野蛮なことしてるやないですか。人を脅して拉致するのって、十分野蛮なことやと思いますけど!」

 百合香、すごいな。こんな時に、こんな場で、大ボスにそんなこと言えるなんて。オカンのお株奪ってるやろ。そのオカンは、青い顔をして、膝の上のカバンに目を落としている。


「私は、脅して拉致しろと言ったわけではないのですよ。宮島圭介さんをここにお連れしろと言ったまで」

 オヤダマは、そう言ってトウマに目をやる。トウマは、顔を赤くして、黙ってうつむく。

 な、なんやコイツ。俺は、また日本によくいる政治家を思い出す。都合の悪いことは、全部秘書に押し付ける政治家あるある。ここは、ほんまにテテトトのサンボンなんか、地球の日本やないんか。

「しかし、どういうやり方でお連れしたにしろ、宮島圭介さんをここにお連れすること自体は、わが国では、違法ではないのですよ」

 俺たちは異星人やからって言うんやろ!


 そのとき、それまで黙っていたオカンが、

「ちょ、ちょっと」

 声をしぼりだした。オカンは、顔を上げて、オヤダマをまっすぐに見つめている。

「なんでウチがおとうちゃんと離婚せなあかんのですか?」

 オカンの声が震えている。

 そ、そや、人体実験やないとわかって、ホッとしている場合やない。オカンとオトンを離婚させるなんて、わけわからんし、それはそれで大問題や。

 

 オカンは、震える手で、カバンの中からメモリーカードの青いケースを取り出した。そして、それを握ったまま、オヤダマのほうに差し出した。

「言われた通り、メモリーカード持ってきました。これ渡したら、おとうちゃん返してくれるんと違うんですか」

 オヤダマは、怪訝な表情でオカンを見ている。

「メモリーカード?」

「ウチは、離婚なんかしません。お願いです。おとうちゃんを返してください」

 オカンは、必死の思いを、握ったメモリーカードに込める。


 

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