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ファミリー・トリップ・トラップ  作者: みずた わかば
第2章 未知の世界
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15.誘拐犯の正体

 トウマは、腕の機械を確認する。そして、

「そろそろ、アナタたちを、上の者のところにご案内イタシマス」

俺たちは、顔を見合わせる。オカンと百合香の顔に、今までにない緊張の色が見える。

「ソノ前に、ワタシたちの国について、少し説明しておくようにと指示されてイマスので、もう少し、ワタシから話をさせてクダサイ」

俺たちは、また顔を見合わせる。


「まず、この国の名前デスが、※△#◎%、といいマス」

「は?」

「は?」

「は?」

トウマが、ふうっと息を吐く。

「どうぞ、ワタシたちの国に、日本語の名前をつけてクダサイ」

「えっ?」

「えっ?」

「えっ? いいん?」

さっきから、そうしてきたやろ、女性陣!

「百合香、アンタつけさせてもらい」

「う、うん。ぜんぜん聞き取れへんかったけど」

「※△#◎%、デス」

「ハ、ハヌ?」

眉間にシワを寄せて聞き取ろうとがんばる百合香に、

「ぜんぜん(ちご)てもええやん」

こんな時にも、主導権を発揮するオカン。

「そ、そやな。そしたら……えーっと、サンボン……にしよかな」

「なんやそれ?」

と、思わず、俺。

「そやかて、ここ、地球やったら、日本(ニホン)とだいたい同じとこにあるて言うてたやろ。イッポンやと、ニホンより偉そうやから、サンボン」

はぁ、百合香、賢いようで、どこかオカンの思考回路受け継いでるな。

「そりゃええな」

と、オカン。ハイ、決定。


 国名も決まり、トウマが、サンボンの説明を始める。

「え、えー、テテトトの科学技術が、地球に比べて進んでいることは、先ほども申しマシタ。ワタシたちの国、サ、サンボンは、そのテテトトの中でも、一歩進んだ技術力を持ってイマス」

 そう言われても、こんな名前やと、マヌケな星のマヌケな国に聞こえるけどな。

「とくに、わが国が力を注いでいるのは、医療技術デス。ワタシの上の者というのは、そのサンボンの、医療技術大臣を務める者でございマス」

 あれっ、トウマ、今、さらっと何かスゴイこと言うたぞ。

「それって、まさか……」

「えっ……」

「うそやろ……」

俺もオカンも百合香も、言葉を失う。ま、まさか、そんなやつが、オトンを拉致した大ボスや言うんか!


 俺たちが、声を出せずにいると、

「医療技術大臣というのは、わが国では、国家機関の事実上ナンバー2にあたりマス」

トウマが追い討ちをかける。

 俺たちは、ポカンとトウマを見つめる。

 やっとのことで、

「そ、それって、総理大臣の次に偉いっていうことか?」

と、声を絞り出すオカン。

「イイエ、この国で総理大臣にあたる者は、あくまでも事実上デスが、ナンバー3デス。サンボンに限らず、テテトトでは、法を守ることを非常に重んじる風潮がアリマス。ですので、事実上のナンバー1は、日本でいうところの、法務大臣ということになるデショウか」

「ホウ? ホウって法律のことですか?」

今関係ないことかもしれんと思ったけど、俺は思わず聞き返していた。

「法律を守ることもそうデスが、ここでは、もっと広い意味にとらえられてイマス。たとえば、決まりを守るとか、約束を守るとか、そういったことに、大きな価値を置いていると言うとわかりやすいデショウか」

はあ、わかったような、わからんような。

「テテトトの多くの国は、経済や外交などの政治面では成熟してイマス。その成熟した安定を支えているのが法だと考えられていマス。ですので、法を整備し、広く国民に浸透させることは、非常に重要視され、法務大臣の役職も重視されるのデス」


 黙って聞いていたオカンが、

「ちょっと!」

と声を上げる。

「なんかようわからんけどな、そんな国の、偉い大臣さんが、人を誘拐するってどういうことやねん! ここじゃ、誘拐は犯罪やないんか! 言うてることとやってることが大違いやろ!」

そ、そうや! オカンの言う通りや! 百合香もぶんぶんとうなずいている。

「も、申し訳アリマセン。で、ですが、わが国では、テテトトの外で拉致を行うこと、ならびに、異星人を拉致することに関しましては、まだ法で規制されておりマセン。ここでは、ほとんどの人民が、まだ異星人の存在すら知らないため、そこまで法の整備が進んでイナイのデス」

 俺たちは、再びポカンと口をあける。

 い、異星人て、俺らのことか?

 俺は、いつか写真で見た、人間に捕まって連行される、銀色全身タイツの宇宙人の姿を思い出す。お、俺らは、あの宇宙人みたいなもんなんか?

「い、異星人て……」

オカンの一言が、戸惑いの余韻を残して、沈黙が落ちる。俺たちは、否定する言葉を持たない。


 これ以上何か話せば、事をさらに荒立てると思ったのか、トウマも口をつぐむ。

 無言の時が流れる。

 そのまま、どれくらいそうしていただろう。トウマの腕の機械が、また、ピピ、ピピと鳴った。腕の機械を確認したトウマが、

「そ、それでは、そろそろ皆さんをお連れいたしマス」

そう言って立ち上がる。すると、

「トウマ、自動翻訳装置を」

と、タッキー。

「あっ、そ、そうデシタ」

トウマは、ラビが持ってきた箱から、ラビがつけていたものと同じイヤホンを、三組取り出した。

「コレは、ラビがつけていたものと逆で、サンボン語を拾うと、自動的に日本語に翻訳シマス。これから、大臣に会っていただくにあたって、コレをつけていただきマス」


 イヤホンを俺たちに渡しかけて、トウマは、

「そうだ、少しお待ちクダサイ」

そう言って、イヤホンをテーブルに置く。そして、スーツの上着のポケットから、小さな機械を取り出した。俺が使っている電子辞書のような形の、二つ折りの機械。

 トウマは、その機械をせわしなく操作する。そして、

「これでいいデショウ。自動翻訳装置を通しても、固有名詞は、そのままの発音で聞こえマスので、今、この星はテテトト、この国はサンボン、ワタシはトウマ、タッキーはタッキー、ラビはラビ、と聞こえるように、自動翻訳装置の更新をいたしマシタ」

 そう言って、イヤホンを俺たちに渡しかけて、再び、

「あっ、もう少しお待ちクダサイ」


 トウマは、さっきの機械をもう一度操作する。今度は、少し思案している様子。

 やがて、

「ハイ、これでいいデショウ。このあと、大臣と話をされるとき、大臣の名前が出るコトがあるかもしれマセン。大臣は、※%◎#△※□%#、といいマスが、聞き取りにくいと思いマシタので、『オヤダマ』と聞こえるように設定いたシマシタ。

 さらに、大臣のご息女の名前があがるかもしれマセンので、ご息女は、『イトサン』と聞こえるように、設定しておりマス。その他の名前があがりマシタラ、固有名詞はサンボン語の発音のママ聞こえマスことを、ご了承クダサイ」

「は、はい」

「はあ」

「はい。けど、オヤダマはわかるけど、なんでイトサン?」

百合香の問いに、トウマの代わりにオカンが答える。

「お嬢さんのこと、関西では、『いとはん』とか『いとさん』て言うんや。今の若い子は、知らんのやなあ。トウマさんのほうがよう知ってはるわ」

 オカンがちょっと微笑んで、こんな時でも、ほんの少し空気が和んだ。それにしても、大臣にオヤダマなんてつけて、トウマ、怒られへんのやろか。ま、バレへんやろけど。


 俺たちは、渡されたイヤホンを、トウマの説明通りに両耳につける。

「なんか、ちょっとサンボン語でしゃべってみて」

と百合香。

「は、はい。よく聞こえますか」

「そやから、サンボン語でって」

「今サンボン語で話しています」

「えーっ」

「えーっ」

「えーっ」

 ほんまにようできた機械や。トウマの声質そのままに、はっきりと日本語が聞こえてくる。


「それでは、参ります」

「ちょっと待って」

百合香が、待ったをかける。

「水、もう一回飲ませて」

 百合香は、リュックからさっきのペットボトルを取り出す。今度はさっきより多めに水を飲んで、それをオカンに手渡した。

 オカンが水を飲んでいる間に、百合香がトウマに尋ねる。

「トウマさん、言語学者やのに、なんで医療技術とかの大臣の手下なん?」

て、手下て。まあ、間違ってないけどな。

「医療技術省では、地球の医療技術の調査をしています。そのために、現地の言葉を習得したり、翻訳装置を開発する必要があるのです」

「そっか。誘拐のために雇われたんとは違うんやね」

「も、もちろんです」

トウマは、真っ赤になって否定する。


 水を飲み終えたオカンから、ペットボトルがまわってきた。俺は、ゴクゴクと、水の潤いをのどいっぱいにしみわたらせる。そして、しっかりふたをして百合香にペットボトルを返す。百合香はまた、それを大事にリュックにしまい、ファスナーをきっちりとしめた。

 俺たちは、姿勢を正して立ち上がる。

 臨戦態勢は整った。

 いざ、大臣のもとへ。

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