第6話:システム公認のドケチ、ユニークジョブに覚醒する
《ワールドアナウンス:プレイヤー【ナナシ】が、全サーバーで初めて第一の街『ベルグ』への到達を果たしました! 彼の偉業を讃えましょう!》
突如として視界上部にデカデカと表示された金色のシステムアナウンス。
もちろんこれはプレイヤー専用のシステムUIであるため、目の前にいるNPCの受付嬢には見えていない。彼女は、俺が唐突に虚空を見つめて動きを止めたのを、不思議そうに見ているだけだ。
「おっと。なんか目立つことになっちゃったな」
俺は気にせず、手元に残っていた黒パンの欠片を口に放り込み、正確に20回咀嚼して飲み込んだ。
よし、これで今日のスタミナ管理は完璧だ。
「ごちそうさまでした。無料のパン、助かったよ」
「あ、は, はい……お粗末様、でした……?」
ドン引きを通り越して戸惑いの表情を浮かべる受付嬢に軽く手を上げ、ギルドを出ようと背を向けたその時だった。
『ピガッ……ピピピッ……』
突然、耳の奥で機械的なノイズが鳴った。
それと同時に、俺の視界の中央にだけ、先ほどの金色のワールドアナウンスとは全く違う、どす黒い赤色のシステムウィンドウが展開された。
《警告(WARNING)。プレイヤー【ナナシ】の異常なプレイデータを検出しました》
《戦闘データの解析を開始します……》
「ん? なんだこれ」
俺は足を止め、空中に浮かぶ赤いウィンドウを注視した。
そこに次々と文字列が浮かび上がってくる。
《解析完了》
《条件1:被弾率0%でのエリアボス単独討伐を確認》
《条件2:リソース(アイテム・耐久値・MP)消費ゼロでの長時間の戦闘継続を確認》
《条件3:戦闘アシスト機能『完全オフ』状態での、弱点命中率99.8%を確認》
《判定:当プレイヤーの戦闘スタイルは、システム上の想定を著しく逸脱した【最適化の極致】であると認定されました》
「想定を逸脱って、ただ一番コスパの良い戦い方をしただけなんだが」
俺のぼやきを無視して、システムは淡々と、しかしどこか荘厳な響きを持って告げた。
《特殊条件の達成により、プレイヤー【ナナシ】にユニークジョブ【最適化の悪魔】を付与します》
「悪魔……?」
ひどい言われようだが、実害がないなら名前なんてどうでもいい。
俺は早速メニューを開き、新たに付与されたというジョブのステータス詳細を確認した。
【ユニークジョブ:最適化の悪魔】
システムのリソースを一切消費せず、ひたすらに効率と殺戮のみを追求した異常者に贈られる称号。
<獲得パッシブスキル>
【ミニマリスト】
装備している武具の「レアリティ」および「市場価値」が低いほど、物理攻撃力に莫大な補正倍率がかかる。
【マニュアル・オーバードライブ】
システムによる各種戦闘アシストが強制的に使用不可となる代わり、アバターの速度制限が完全に解除される。プレイヤーの現実の反応速度が、そのままステータス(AGI)に反映される。
「…………っ!!」
俺は思わず、その場でガッツポーズをしそうになるのを必死に堪えた。
なんだこのジョブは。俺のプレイスタイルのために用意されたような、究極のエコ・スキルじゃないか!
特に素晴らしいのが【ミニマリスト】だ。
レアリティと市場価値が低いほど攻撃力が上がる。
つまり、俺が今装備している『初期の布服』と『初期の木の棒』は、レアリティ最低・市場価値ゼロであるため、このスキルの恩恵を最大値で受けられることになる。
「つまり……修理費ゼロの木の棒のまま、最前線のボス相手でも十分なダメージを叩き出せるってことか。最高だ……最高のコスパだぞ!」
もう30分もかけてチクチクとボスを突く必要すらなくなる。
初期装備さえ着ていれば、金策も、装備の更新も、武器を修理しに行く移動時間すらも、今後のゲームプレイから一切合切『省略』できるのだ。
「ふふっ……ふふふっ。素晴らしい。なんて効率的なんだ」
究極の時短と節約を約束された歓喜に、俺は思わず口元を歪めて薄笑いを漏らしてしまった。
「ひっ……!?」
ふと背後から息を呑む音が聞こえ、振り返る。
そこには、カウンターの隅でガタガタと震え上がる受付嬢の姿があった。
彼女から見れば、立派な鋼の剣を拒否してゴミのような黒パンを食った男が、突然虚空を見つめながらブツブツと呟き、不気味な笑みを浮かべているようにしか見えないのだ。
高度なAIは、俺を『完全に関わってはいけない狂気の冒険者』としてインプットしてしまったらしい。
「あー……その、脅かすつもりはなかった。気にしないでくれ」
「は、はいぃっ! ど、どうかお気をつけて……!」
これ以上長居すると変に通報システムなどを起動されかねない。
俺は足早に冒険者ギルドを後にした。
「さて。スタミナも回復したし、次は街の外で【マニュアル・オーバードライブ】の速度検証だな」
俺はウキウキとした足取りで、まだ誰もプレイヤーが到着していない『ベルグ』の街の北門――さらに上位の魔物が跋扈するフィールドへと向けて、タダ同然の木の棒を肩に担いで歩き出した。




