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初期装備の最適解  作者: リリリリス


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第33話:権限の「上書き(オーバーライト)」と、初期装備の最強管理者

真っ白な管理者権限のゲートをくぐり抜けた俺とカイの前に広がったのは、コードが流れる無機質な「サーバーの深淵」だった。


そこは、ゲーム内のあらゆる事象が「数式」として可視化される場所だ。


空を流れる雲の座標、プレイヤーの所持金テーブル、果てはNPCの感情パラメータまで、すべてが光の粒子として浮遊している。


「ここが、世界の心臓部か……」


カイが光り輝くコードの束に手を触れ、驚愕の声を上げた。

彼の手元で、コードが文字化けを起こし、瞬時に別の数値へと書き換わっていく。


「ナナシ、あんたの言った通りだ。ここでは『物理法則』すら、ただの変数(変数)に過ぎない。俺の握力値を【無限】に書き換えれば、この空間そのものを握りつぶせるぞ」


「やめておけ。そんなことをすれば空間の物理演算フィジックス・エンジンがオーバーロードして、ロード時間が発生する」


俺はカイを制し、自身の眼前に浮かぶ「ナナシ」というデータオブジェクトのステータスウィンドウを開いた。


俺の目的は、この世界の神になることではない。

あくまで「スタミナを消費せず、最短距離で世界を走破する」ことだ。


俺は自分のデータの中に書き込まれていた『移動制限』と『エリア外判定』のフラグを指先で摘まみ上げ、ゴミ箱へ放り込んだ。


『ピコン!』

《システム:プレイヤー「ナナシ」の移動制限が解除されました》

《警告:エリア境界線が無効化されました》


続いて、俺は「所持金0G」の固定フラグを解除せず、代わりに『0Gである限り、全移動コストを【0】に変換する』という新しい恒等式を書き加えた。


「……これで、所持金0Gのままなら、宇宙の果てまで『歩くコスト』はゼロだ。……ようやく、完璧な環境が整った」


その時、サーバーの奥から、無数の「監視プログラム」が警告音を鳴らしながら押し寄せてきた。


運営側が放った「管理者排除用の防衛システム」だ。


それは、いかなる攻撃も受け付けない【無敵属性】を持った、真っ黒な球体だった。


「ナナシ、来たぞ! 物理攻撃も魔法攻撃も無効化される、削除デリートプログラムだ!」


カイが叫ぶ。

しかし、俺はあくびを噛み殺しながら、木の棒を構えた。


「無敵? 冗談を言うな。この世界に『存在している』以上、それは必ず『特定の処理プロセス』を介して計算されているはずだ」


俺は【マニュアル・オーバードライブ】を過去最高出力まで引き上げた。


脳内の思考速度が加速し、サーバー内のコードがスローモーションで流れる。

監視プログラムが移動する際、わずかに発生する「メモリの書き換えラグ」


そこが、唯一の綻びだ。


「ここだ」


俺は監視プログラムが次の座標へ移動しようとするコンマ数秒の間に、木の棒を突き刺した。

攻撃したのではない。


プログラムが「無敵状態を維持するため」に参照している『フラグの書き換えコード』を、木の棒の先でピンポイントに弾き飛ばしたのだ。


『バグォォォォンッ!!!』


真っ黒な球体が、自身の無敵データを処理落ちさせ、その場で自壊する。

存在の根拠を失ったプログラムは、ただの光の塵となってサーバーの海に溶けていった。


「嘘だろ……。プログラムそのものを『オフライン』にしたのか?」


カイが呆然と呟く。

俺は木の棒を肩に担ぎ、管理者権限の最深部で、この世界の「地図」を広げた。


「さて、この世界の全エリアが解禁された。……どっちへ走る?」


俺が尋ねると、カイはニヤリと笑い、俺と同じく初期装備の布服の袖を捲り上げた。


「あんたが作る『一直線の道』の先にな。この先、運営が隠し通そうとしていた『開発中の未実装エリア』がいくつあるか……想像しただけでタイパが良くなりそうだ」


俺たちは並んで、果てしないコードの海へと足を踏み出した。

背後では、俺たちが作り変えたシステムが、俺たちの歩みに合わせて最適なマップを自動生成し続けている。


もはや、このゲームに運営は必要ない。

俺たちが歩く場所が、そのまま世界のルールとなり、俺たちが走る道が、そのまま世界の地図となる。


「行くぞ。次の目標地点は、マップの果ての『限界座標』だ」


二人の最強の無一文は、システムをも凌駕する足取りで、まだ誰も見たことのない「世界の終わり」へと向かって突き進むのだった。

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