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初期装備の最適解  作者: リリリリス


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第27話:定点自動化(オート)のスクラップ処理場と、トップギルドのスクラップ化

第三の街『機巧都市ギア』の地下深く――。


かつて機能していた大規模な製造ラインの残骸が広がる【廃棄スクラップ工場】は、重苦しい金属音と、赤錆びた蒸気が立ち込める薄暗いダンジョンだった。


このエリアが全プレイヤーから「最悪の赤字ダンジョン」として忌み嫌われている理由は、徘徊するモンスターたちの極悪な特性にある。


『ギギ……ガガガッ……!』


通路の奥から現れたのは、全身が分厚い鋼鉄の装甲で覆われた人型の機械兵『クロックワーク・ソルジャー』だ。


こいつらは物理防御力が異常に高いだけでなく、その装甲に攻撃をヒットさせたプレイヤーの武器の耐久値を、一撃につき『100』も強制的に削り取ってくる【耐久値クラッシャー】なのである。


「おいおい、冗談だろ!? 一戦交えただけで、おれの自慢のレア剣の耐久値が半分以下になったぞ!」


「あいつらを1体倒すための修理費ランニングコストで、普通のダンジョンの数倍のゴールドが吹き飛ぶ! 割に合わなさすぎる!」


それが、この街に到着したトッププレイヤーたちが流した血の涙の教訓だった。


だが、そんな地獄のスクラップ工場を進む俺の視点は、彼らとは180度異なっていた。


「素晴らしい。完璧な等速直線運動だ」


俺は通路の陰から、一定のルートを寸分の狂いもなく巡回している機械兵たちを眺め、満足げにうなずいた。


彼らはゲーム内のプログラム(AI)に従って動く機械だ。


生身の魔物のように不規則な動きをすることなく、定められた巡回ルートを、定められた速度で、正確無誤に歩き続けている。


「索敵の手間が完全にゼロ。おまけに道幅が狭く、敵がやってくる方向が一本道に限定されている。これほど効率的な狩場が他にあるだろうか」


前方の機械兵が、こちらの存在を感知して『ピガッ! 侵入者、排除!』と赤い警告灯を光らせ、ガチガチの鋼鉄の拳を突き出してきた。


まともに受ければ防具が砕け、こちらが攻撃すれば武器が壊れる絶望の刃。


だが、俺が右手に持っているのは、システム上の買い取り価格が0Gの、ただの『初期の木の棒』だ。


耐久値という概念そのものが存在しないため、どれだけ硬い鋼鉄を殴ろうが、1ミリも損耗クラッシュすることはない。


俺は【マニュアル・オーバードライブ】で機械兵の拳の軌道をミリ単位で見切り、最小限の首の傾げだけで回避。


すれ違いざま、機械兵の装甲の『繋ぎ目』に向けて、木の棒を無造作にフルスイングした。


『パァァァァンッッ!!!』


【ミニマリスト】による極大火力が、装甲の隙間から機械兵の内部回路へとダイレクトに炸裂する。


鋼鉄の巨体は、内側から高圧蒸気を噴き出させながら、一撃でバラバラのクズ鉄へと変わった。


「よし、次。はい、次」


俺はそこから一歩も動かなかった。

通路の角、機械兵が巡回ルートで必ず『直角に曲がるポイント(ボトルネック)』に陣取り、ただメトロノームのように一定のリズムで木の棒を振り続ける。


避けて、振る。

避けて、突く。


スタミナ消費はゼロ。武器の損耗もゼロ。

向こうから勝手に等速で流れてくる鋼鉄の塊を、ただ淡々とデリートしていく。


その光景は、もはや戦闘ではなく、高度に最適化された工場の「不良品破砕ライン」そのものだった。


俺がそんな完全自動化オートのレベリング作業を始めてから、数時間が経過した頃。


「おい、本当にこの先に『絶対貧困層』のバケモノがいるのか?」


「ああ、間違いない。ギルドの斥候が、初期装備の男が一人で地下に降りていくのを見たって……」


背後の通路から、重々しい足音が響いてきた。

現れたのは、この街のトップギルド『鉄錆の旅団』の攻略プランナーたちだった。


彼らは、次の一大イベントに向けてこの不人気ダンジョンのボスを攻略すべく、ギルドの資金を湯水のように投入し、大量の「予備の武器」を台車で運びながら進んできた精鋭たちだ。


彼らは、ボスの部屋へ続く唯一の通路の前に差し掛かった瞬間、全員が言葉を失ってフリーズした。


「な……なんだ、この……クズ鉄の山は……!?」


彼らの目の前に広がっていたのは、数千、数万体もの機械兵が解体された、文字通りの『鋼鉄の山脈』だった。


機巧都市のショップで売却すれば、天文学的なゴールドになるであろう高級ギアや超合金のパーツが、足の踏み場もないほどにそこら中にポイ捨てされている。


そして、その山脈の頂点に。

『初期の布服』を着た男が、虚空を見つめながら、一定のテンポで木の棒を振るっていた。


『パァァァァンッッ!!!』


巡回ルート通りにやってきた最新鋭の機械兵が、男の棒に触れた瞬間にワンパンで粉砕され、新たなクズ鉄として山脈に積み上げられる。


「バ、バケモノか……? 物理耐性100%に近いあの重装甲を、ただの木の棒で……!?」


「おい見ろ! あいつの持ってる棒、どれだけ鋼鉄を殴っても火花すら散ってないぞ! 耐久値の概念はどうなってるんだ!?」


ギルドの面々が恐怖に震え、プロのゲーマーとしてのプライドを根底からへし折られてガタガタと震え出す。


彼らが何十万Gもの修理費を支払い、命がけで1体を処理している悪夢のモンスターが、目の前の男にとっては『ベルトコンベアから流れてくる無料の経験値』でしかないのだ。


あまりの光景に耐えかねたギルドマスターが、ふらふらと前に出た。


「き、君……! なぜこれほどのレア素材を放置しているんだ!? これを売れば、この街の最高級の路面電車も、エレベーターの利用権も、何もかも買い戻せるぞ! なぜ無一文のままでいる!?」


悲痛な叫びのような問いかけ。

しかし、俺は木の棒を振るうリズムを1ミリも崩すことなく、冷徹な目を彼らに向けた。


「君たち、邪魔だ。そこから一歩も動くな」


「な、何だと……!?」


「君たちがそこに立って声をかけたせいで、俺の『咀嚼のタイミング』が0.5秒ズレた。非常に非効率だ」


俺は左手に持っていた、ギルドで支給された灰色の『超高圧縮カロリーブロック(ディストピア飯)』を、1回の咀嚼でゴクリと丸呑みにした。


「1秒で食事を終わらせ、スタミナ消費ゼロの戦闘ルートを維持する。これが俺の完璧なタイムスケジュールなんだ。君たちが無駄な大声を出して俺の脳の演算リソースを奪うなら、タイムパフォーマンスが落ちるから今すぐ立ち去ってくれ」


「しょ、食事のタイミング……!?」


ギルドマスターの脳が、完全にバグを起こした。

目の前の男は、数億Gの価値がある鋼鉄の山には目もくれず。


泥の味がすると悪名高い無料のゴミ飯を『1秒で食べるタイパ』を守るためだけに、トップギルドの進言を「邪魔だ」と切り捨てたのだ。


「……撤退だ。あいつに関わるな」


ギルドマスターは虚ろな目でそう呟くと、予備の武器が満載された台車を置き去りにしたまま、圧倒的な敗北感と共に、這うようにして回れ右をした。


背後からは、再び規則的な音が響き始める。

衣服が擦れる微かな音。木の棒が風を裂く、極小の音。


そして、鋼鉄の最新鋭兵器がワンパンでクズ鉄へと変わる、理不尽な破壊の音だけが、地下工場に冷徹な工場の稼働音のように鳴り響き続けていた。

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