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初期装備の最適解  作者: リリリリス


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第26話:絶対貧困の証明書と、咀嚼回数1回のディストピア飯

『ドガァァァァァァンッッ!!!』


流砂の海を爆走してきた砂上船ガレオンが、猛烈なスピードのまま第三の街『機巧都市ギア』の港にドリフト気味に乗り上げ、激しい砂塵を巻き上げて停止した。


「「「お、おぇぇぇぇぇぇっ……!!」」」


船が止まった瞬間、甲板にいた一般プレイヤーや商人NPCたちが一斉に膝から崩れ落ちた。


無理もない。本来なら数時間かけて優雅に進むはずの船旅が、砂鯨のブレスを推進力エンジンにしたことで、Gに耐え続ける地獄の絶叫アトラクションと化していたのだから。


後方では、限界まで潮を吹かされ続けてすっかり干からびた砂鯨が、白目を剥いて砂の海へと沈んでいくところだった。


「ご苦労。最高の推進力(タダ働き)だったぞ」


俺は船首の女神像の上から軽やかに飛び降り、一切のスタミナを消費することなく港の地面へと着地した。

到着時間は予定より3時間も巻き進行。完璧なタイムパフォーマンスである。


顔を上げると、そこには第一、第二の街とは全く異なる光景が広がっていた。

空を覆うほどの巨大な歯車、パイプから噴き出す蒸気、そして高層ビル群の合間を縫うように走る路面電車。


ここはシステムが高度に自動化された、スチームパンク風の『機巧都市』だ。

俺はタイムロスを防ぐため、一直線に街の入り口に設置された巨大なメインゲートへと向かった。


しかし、ゲートの前には無骨な鋼鉄の自動人形オートマトンが立ち塞がり、赤いセンサーの目を光らせた。


『ピガッ。通行人ヲ確認。機巧都市ギアヘノ入市税、ヨビ、施設利用登録料トシテ「500G」ヲ徴収シマス』


機械音声が無機質に告げる。

どうやらこの街は、入るだけでランニングコスト(税金)を取るらしい。


「500Gだと? ふざけるな。息をするだけで金を取るような街に用はない。俺の所持金は0Gだ。通せ」


俺が堂々と無一文であることを宣言すると、自動人形の赤いセンサーが激しく点滅した。


『……所持金データヲ照会……ガガッ。エラー。エラー。所持金【0G】ヲ確認』


自動人形の首が、あり得ない角度でギギギと傾いた。


『機巧都市ノシステム上、所持金0Gノ対象ハ想定サレテイマセン。再計算……再計算……。結論。アナタハ、システム史上初ノ【絶対貧困層】デス』


ピコン、と俺の視界にシステムウィンドウが表示された。


《特別救済措置として『最下層民の証(烙印)』が発行されました》


『コレニヨリ、入市税ハ免除サレマス。タダシ、街ノ路面電車、昇降用エレベーター、全ショップノ利用権限ガ永久ニ剥奪サレマス。スベテノ移動ハ「徒歩(自力)」デ行ッテクダサイ』


後からやってきたプレイヤーたちが、そのアナウンスを聞いて絶句していた。


この広大で高低差の激しい機巧都市で、便利な移動ギミックを一切使えず、アイテムの売買すらできない。それはゲーム進行において、あまりにも致命的な『縛りプレイ(デバフ)』に他ならない。

だが、俺は歓喜に震えていた。


「素晴らしい……! 有料の移動施設を使えないということは、間違えて金を使ってしまうリスクがシステムレベルで完全に排除されたということだ! しかも入場料はタダ! 究極のエコ・パスポートじゃないか!」


俺は自動人形の肩をポンと叩き、意気揚々とゲートをくぐり抜けた。


街の中は、至る所に蒸気式のエレベーターや動く歩道が設置されていたが、俺が近づくと『貧困層アクセス拒否』という赤いホログラムが出て稼働を停止する。


「いいぞ。俺のマニュアル・オーバードライブは無料だ。機械の力など借りる必要はない」


俺は階段やパイプの足場をスタミナ消費ゼロの反復横跳びで駆け上がり、最短ルートで街の上層にある『冒険者ギルド・ギア支部』へと到着した。


ギルドの中も完全に機械化されており、受付嬢はおらず、代わりに無数の『自動配給機』が並んでいた。


「なるほど、人件費も削っているわけか。俺と気が合いそうな街だ。さあ、無料タダの黒パンを出せ」


俺が配給機の【無料支援】ボタンを押すと、ガコン、という音と共に、銀色のトレイに乗った『何か』が出てきた。


それは黒パンですらなかった。

親指ほどのサイズの、無機質な灰色の『超高圧縮カロリーブロック』だった。


近くのテーブルでは、同じくそれを受け取った貧乏プレイヤーたちが「泥の味がする」「固すぎて歯が折れそうだ」「食事の楽しみが皆無のディストピア飯だ」と泣きながらかじっている。


だが、俺はそのブロックを見た瞬間、感動のあまり目を見開いた。


「……計算上、このサイズなら……咀嚼回数『1回』で飲み込める……!」


俺はカロリーブロックを口に放り込み、奥歯で一思いに噛み砕き、水で胃に流し込んだ。

味は完全に虚無だったが、そんなことはどうでもいい。


「これまでの黒パンの咀嚼回数25回、所要時間1分というタイムロスが……たったの『1秒』に短縮されただと!? 食べるという作業を極限まで圧縮した、まさに神のタイパディストピアじゃないか!!」


これなら、ダンジョンに向かう移動中に走りながらでも余裕で処理できる。

俺はこの街の冷徹な効率主義システムに、深い感銘を受けていた。


「最高の街だ。移動費はゼロ、食事のカロリー(時間)もゼロ。あとは『スタミナを使わずに狩れる最高の狩場』を見つけるだけだな」


俺は灰色のブロックの味を水で洗い流すと、ギルド内のクエストボード(電子掲示板)へと向かった。


そこには、プレイヤーたちが忌み嫌う『最悪の不人気ダンジョン』――物理耐性が異常に高い機械兵が徘徊し、武器の耐久値を一瞬で削り取っていく【廃棄スクラップ工場】の依頼が、誰にも受けられずに大量に売れ残っていた。


「よし、次の出前の処理場はここに決まりだな」


耐久値無限の『初期の木の棒』を肩に担ぎ、俺は一切の無駄を省いた軽やかな足取りで、システムから見放された絶対貧困の冒険者として、機械の街の地下深くへと潜っていくのだった。

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