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初期装備の最適解  作者: リリリリス


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第24話:重量超過の末路と、タダ働きの推進力

第二の街『オアシス』の冒険者ギルド。


俺がいつものように定位置のベンチで、無料タダの黒パンを咀嚼回数25回という完璧なペースで処理していると、ギルドの扉がバンッと勢いよく開いた。


「はぁっ、はぁっ……! ぜ、全滅した……!」


転がり込んできたのは、俺が『古代生体研究施設』で見かけた重装備のプレイヤーたちだった。

彼らは全員、デスペナルティの黒いモヤを纏っており、顔を真っ青にしている。


「あ、あなたたち、あの発光菌のダンジョンに行っていたはずじゃ……!?」


獣耳の受付嬢が慌てて駆け寄ると、重戦士の男は涙ながらに叫んだ。


「あ、ああ……! 施設の一番奥に行ったら、エリアボスが自分の植物に縛り上げられて死んでて……その足元に、100万G以上で売れる激レア素材『星霊の輝石』が落ちていたんだ……!」


「まぁっ! それは素晴らしい幸運……」


「違うんだ! 拾った瞬間、そのアイテムの『重量(20kg)』のせいで、パーティー全員のスタミナ消費量が限界突破して……! 発光菌のセンサーが一斉に反応して、俺たち全員、植物のバケモノに養分として吸い尽くされたんだよォォォッ!!」


ギルド内に重戦士たちの悲痛な叫びが響き渡る。


「(だから言っただろうに。重量は効率の最大の敵だと)」


俺は同情するどころか、黒パンをかじりながら呆れ返っていた。


スタミナ管理もできないくせに、目の前のレアアイテム(重量物)に目が眩むからそうなる。強欲は身を滅ぼす、というゲームの基本を彼らは全く理解していない。


「……さて。腹も膨れたし、そろそろ次の街へ向かうとするか」


俺は立ち上がり、受付嬢のカウンターへと向かった。


重戦士たちを慰めていた受付嬢は、俺の顔を見るなりピシッと姿勢を正した。


「ナナシ様! 本日も完璧な無料タダの食事、お疲れ様です! 次の街へのルート案内ですね!」


「ああ。第三の街『機巧都市ギア』へ行きたい。もちろん、移動コスト(金)は一切かけずにな」


受付嬢は慣れた手つきでマップを広げた。


「第三の街へ向かうには、『流砂の海』と呼ばれる広大な砂の海を越える必要があります。徒歩での横断は100%不可能(即死)なフィールドとなっておりまして……正規ルートは、この街から出港している『超高級砂上船ガレオン』に乗船することです」


「船か。当然、乗船券はタダじゃないんだろうな?」


「はい。一般客として乗る場合、お一人様5,000Gになります。……ですが!」


受付嬢は俺が「歩いて(泳いで)行く」と言い出すのを警戒したのか、食い気味に一枚のクエスト書を提示してきた。


「砂上船の『護衛クエスト』を受ければ、乗船料は無料! さらに前金として1,000G、到着後に報酬が支払われます! もちろん、船内での食事(黒パン)も支給されますよ!」


「なるほど。船に乗って立っているだけで移動でき、食事もついてくる。完璧なタイパ(時間効率)だな。受けよう」


「ありがとうございます! では、こちらがクエストの前金、1,000Gになります――」


「いらん。俺の所持金を1Gでも増やそうとするな。金はギルドへの寄付ドブにでも捨てておけ」


「……えぇぇ……(クエスト報酬を寄付に回すドケチ……?)」


受付嬢がバグったような顔をしているのを尻目に、俺はクエスト書だけをひったくり、ギルドを後にした。


数十分後。

オアシスの街の郊外にある砂の港には、巨大な木造の帆船『砂上船』が停泊していた。

俺は護衛(タダ乗り)として甲板の端に陣取り、一切の無駄な動きをせずに海風(砂風)を浴びていた。


「よし、出航だ! 風を読め!」


NPCの船長の号令と共に、帆が風を孕み、船が広大な砂の海を滑るように進み始める。


徒歩では数日かかる距離を、システムが用意した乗り物で数時間で突破する。悪くない時間潰しだ。

だが、流砂の海の中央付近に差し掛かった時。

突如として、船体の真下の砂が大きく渦を巻き始めた。


『ゴゴゴゴゴォォォッ!!』


「敵襲ゥゥゥッ!! 砂海のリヴァイアサンだァァァッ!!」


見張りのNPCが絶叫する。

砂の海を割って姿を現したのは、船の数倍はあろうかという超巨大な『砂鯨サンド・ホエール』だった。


「ひぃぃっ! ご、護衛の連中! 早くなんとかしろ!」


船に乗っていた金持ちの商人NPCや、一般のプレイヤーたちがパニックに陥り、甲板を逃げ惑う。


「(チッ。面倒なイベント戦が始まったか)」


俺はため息をついた。

こんな巨大なボスをまともに相手にすれば、俺の木の棒が届く範囲まで動き回らなければならず、スタミナを消費してしまう。


かといって放置して船が壊されれば、移動手段を失って徒歩(地獄)で砂漠を歩くハメになる。


「……一番『タイパが良い処理方法』は、これだな」


俺は【マニュアル・オーバードライブ】で砂鯨の『浮上ベクトル』と『船の進行方向』を瞬時に計算。

甲板を蹴り、空中に大きく跳躍した。


『ブォォォォンッ!!』


砂鯨が船を丸呑みにしようと、大口を開けて下から突き上げてくる。

俺はその巨大な鼻面にタイミングを合わせ、空中の重力落下を利用した『スタミナ消費ゼロ』の突きを放った。


『パァァァァンッッ!!!』


俺の木の棒が、砂鯨の急所である鼻先のコアにピンポイントで直撃する。


【ミニマリスト】の理不尽な火力を一点集中で叩き込まれた砂鯨は、痛みのあまり『ビクゥッ!』と痙攣し、大きくのけぞった。


『プギュルルルルッ!?』


そして、のけぞった反動で――砂鯨の頭頂部にある『潮吹き穴』が、偶然にも(計算通りに)船のメインマストの『帆』のド真ん中へ向けられた。


『ブシュアァァァァァァッッ!!!!』


痛みで暴発した砂鯨の潮吹き穴から、超圧縮された強烈な空気と砂のブレスが噴射される。


「よし、かかった。全速前進だ」


帆に直撃した超強風のブレスは、船体に凄まじい推進力を与えた。


巨大な砂上船は、まるでモーターボートのように『バアァァァァンッ!!』とウィリー走行に近い角度で跳ね上がり、流砂の海を音速で爆走し始めたのである。


「「「ぎゃあああああああッ!? は、速すぎるゥゥゥッ!!?」」」


甲板で一般プレイヤーたちとNPCがGに耐えきれずに転げ回る中。

俺は船首の女神像の頭の上に静かに着地し、腕を組んで涼しい顔をしていた。


「素晴らしい。ボスの攻撃を利用した無料タダの超大型エンジンのおかげで、到着時間が3時間は短縮できる。これで次の街での睡眠時間がたっぷり確保できるな」


『プギィィィ!? プギュルルルッ!!』


後ろでは、鼻を殴られた痛みに悶絶する砂鯨が、必死に船を追いかけながら潮吹き(ブレス)を帆に当て続け、結果的に船をさらに加速させるという永久機関(バグ挙動)が完成していた。


「ほら、推進力プロペラの回転数が落ちてるぞ。もっと気合を入れて吹け」


第三の街『ギア』の港に、砂鯨を船外機エンジン代わりにした謎の爆速ガレオン船がドリフト駐車してくるまで、あとわずか。


一切のスタミナを使わず、お金も払わず、ただ効率だけを追い求める男の最適化の旅は、いよいよ機械の街へと到達しようとしていた。

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