第23話:発光する研究施設と、スタミナ消費ゼロの透明人間
第二の街『オアシス』からさらに奥地へ進んだ先にある未踏破エリア。
そこは、ファンタジー世界には似つかわしくない、分厚い金属の扉とガラスシリンダーが立ち並ぶ『古代生体研究施設・跡地』だった。
施設内は、青白く発光する未知のエイリアンのような植物によって完全に飲み込まれ、不気味ながらも幻想的な、廃墟の植物園のような光景が広がっている。
「ほう。照明器具もないのに明るい。松明代が浮いて非常にエコなダンジョンだな」
俺は無料の明かりに満足しつつ、発光する植物のツルをかき分けて施設内を進んでいった。
すると前方の通路で、重装備のプレイヤーたちが数人、床を這いつくばるようにしてジリジリと進んでいるのを発見した。
「おい、絶対に走るなよ! 少しでもスタミナゲージを消費したら、周りの『発光菌』が反応して襲いかかってくるぞ!」
「わかってる! 気配を消す【隠密のポーション(1本1万G)】もガブ飲みしてるんだ、絶対に死ねない……!」
彼らは汗だくになりながら、一歩進むのに数十秒をかけるという、極めてタイムパフォーマンスの悪い歩き方をしていた。
このダンジョンのギミックは明確だ。
壁や床を覆い尽くす発光植物は『スタミナ消費(プレイヤーの激しいアクション)』を感知するセンサーになっている。
走る、大振りな攻撃をする、スキルを使う。そういった「リソースを消費する行動」を取った瞬間、植物が狂暴化してプレイヤーを養分として吸収してしまうのだ。
「なるほど、1万Gのポーションに、時給換算で最悪な移動速度。どいつもこいつも非効率の極みだな」
俺は這いつくばる彼らの真横を、スタスタといつものペースで通り過ぎた。
「なっ!? おいバカ、歩くな! 走らなくても、二足歩行の時点でスタミナを消費して――」
警告しようとしたプレイヤーの言葉が、途中で止まった。
俺がどれだけ普通に歩こうと、壁面の発光植物たちは一切反応しなかったからだ。
微かに揺れることすらなく、ただ静かに青白い光を放ち続けている。
「な、なんでだ……!? なんであいつが普通に歩いてるのに、発光菌が反応しないんだよ!?」
「ポーションも飲んでないただの初期装備だぞ!? システムバグか!?」
彼らが混乱するのも無理はない。
だが、答えは非常にシンプルだ。
俺の歩き方は、骨格のバランスと重力移動のみを利用し、筋力を一切使わない『究極の省エネ歩法』として完全に最適化されている。
つまり、システム上、俺の移動時のスタミナ消費量は【0】。
発光植物のセンサーから見れば、俺は動く生物ではなく、ただ風に転がる『石ころ』と同じ、背景オブジェクトの一部として処理されているのだ。
「お前らも、無駄な力を抜いて歩けばタダで進めるぞ」
「そんなことできるかァァァッ! 普通に生きてるだけでスタミナは消費する仕様なんだよォォ!」
後ろで喚いている彼らを放置し、俺は発光する廃植物園のさらに奥へと歩みを進めた。
『グルルルルッ……!』
最奥のシリンダー室に到着したところで、巨大な影が立ち塞がった。
全身を発光植物に寄生された、キメラのような異形の獣。この施設のエリアボスだ。
「厄介だな。あいつに攻撃を仕掛ければ、さすがの俺もスタミナを――」
俺がそう呟くよりも早く、キメラが咆哮を上げ、天井を蹴って飛びかかってきた。
その瞬間、ボスの『激しいスタミナ消費』に反応し、周囲の壁を覆っていた発光植物が一斉にざわめき、凶悪なツルを伸ばしてボス自身に絡みつき始めた。
「……ん?」
キメラはプレイヤーを襲うために動いたはずが、自分に寄生している植物のセンサーを反応させてしまい、自身のツルに雁字搦めにされて空中でピタッと静止してしまった。
『ギャウッ!? グガガガッ!』
「なるほど。自分のスタミナ消費で自分を縛り上げているのか。なんて燃費の悪い(アホな)ボスだ」
俺は、ツルに縛り上げられて空中で身動きが取れなくなっているボスの元へ、スタミナ消費ゼロの歩みで静かに接近した。
そして、その眉間にあるコアへ向けて、耐久値無限の木の棒を、やはりスタミナ消費ゼロの最小モーションで突き入れた。
『パァァァァンッッ!!!』
俺の【ミニマリスト】の極大火力がコアを粉砕。
ボスは一切の抵抗もできないまま、光の粒子となって消滅した。
俺が攻撃したという事実すら、周囲の植物センサーには感知されていない。
『ピコン!』
『エリアボスの討伐を確認しました』
『討伐報酬:【星霊の輝石(重量20kg)】を獲得しました』
「20キロ……? こんな漬物石みたいなものをインベントリに入れたら、スタミナが増大して、俺まで植物のセンサーに引っかかってしまうじゃないか」
俺は100万Gで取引される激レア素材を、迷うことなくその場にポイと蹴り捨てた。
「さて、照明代もかからず、ボスが自滅してくれる素晴らしいVIPルームだったが、そろそろリアルでの夕食の時間だ。帰って無料の黒パンをもらうとしよう」
俺は発光する植物の群れの中を、ただの一度もセンサーを鳴らすことなく、来た時と同じ完璧な燃費で優雅に立ち去るのだった。




