第16話:最強の限定報酬(ゴミ)と、トップランカーの虚無
現実時間の23時ジャスト。
突如として夜空に華やかなファンファーレが鳴り響き、全プレイヤーの視界に巨大な金色のシステムウィンドウが展開された。
《第一回公式イベント『防衛戦』の全日程が終了しました!》
《これより、個人ランキングの最終結果および、報酬の配布を行います!》
そのアナウンスと共に、廃植物園のアーチの奥から湧き出していた魔物の大群が、光の粒子となって一斉に消滅していく。
「ふう。やっと終わったか」
俺は一定のリズムで振り続けていた木の棒を下ろし、軽く肩を回した。
「経験値は美味かったが、さすがに同じ15度の角度で棒を8000回振る作業は、少し退屈だったな」
「(……8000回……バケモノか……)」
背後でアルフレッドが何事か呟いていたが、タイムパフォーマンスに影響はないので無視する。
数秒後、目の前のシステムウィンドウが切り替わり、最終ランキングが表示された。
【第一回防衛戦:個人獲得ポイントランキング(最終結果)】
第1位:ナナシ 4,250,000pt
第2位:アルフレッド 28,500pt
第3位:爆炎のクリス 26,400pt
2位以下に文字通り桁違いのスコア差をつけ、俺のぶっちぎりの1位が確定した。
そして、システムのアナウンスと共に、俺の目の前に神々しい光を放つ白金の宝箱が出現する。
「おお……! それが、個人総合1位のプレイヤーだけに与えられるという、ワンオフの限定報酬……!」
アルフレッドが息を呑んで見つめる中、俺は宝箱の蓋を開けた。
中には、まばゆいオーラを纏った一本の美しい片手剣が収められていた。
【イベント限定UR:英雄の守護剣】
市場価値:測定不能 / 重量:8.5kg / 耐久値:1000/1000
「なるほど」
俺はステータスを確認し、即座に顔をしかめた。
耐久値が設定されているということは、使えば減るし、修理費がかかるということだ。
おまけに『市場価値が測定不能(極めて高い)』ため、装備した瞬間に俺のチート級パッシブスキルである【ミニマリスト】の攻撃力補正が完全に消滅してしまう。
極めつけに、重量が8.5kgもある。
こんな重い鉄の塊をインベントリに入れたら、移動時のスタミナ消費が激増して、無料の黒パンだけでは生活できなくなってしまう。
「結論。圧倒的なゴミだな」
俺は迷うことなく、その神々しい剣を背後へ向かって放り投げた。
「わぁっ!?」
慌ててそれを受け止めたのは、ずっと後ろで硬直していたアルフレッドだった。
「な、ナナシ君!? なにをしているんだ! これは全プレイヤーが喉から手が出るほど欲しかった、最強の限定UR武器だぞ!?」
「ああ、それ君にあげるよ」
「……はい?」
アルフレッドから間の抜けた声が漏れた。
「俺のプレイスタイルには合わない。修理費がかかる武器なんてコスパ最悪だからな。あと、そこに落ちてる素材の山も全部持っていっていいぞ。拾う動作のスタミナと、持ち帰る重量(スタミナ消費)が勿体ないからな」
「拾う……スタミナ……?」
アルフレッドは手の中の最強UR武器と、足元に広がる数千万G相当のレア素材の山を交互に見比べた。
そして完全に脳の許容量を超えたのか、白目を剥いてプルプルと震え出した。
「じゃ、俺はこれで」
俺は視界の端のシステム時計を確認する。時刻は23時10分。
「おっと、いけない。もうすぐ寝る時間だ。急いで広場の無料ベンチまで走らないと」
健康的なリアル生活を維持するためには、1分1秒の狂いも許されない。
俺は即座に【マニュアル・オーバードライブ】を足に集中させ、地面を蹴った。
『ドゴォォォォンッ!!』という爆発音と共に、俺の身体は弾丸のような速度で第一の街の広場へと向けて射出された。
「あ、待っ――」
後に残されたアルフレッドは、伝説の武器と天文学的な資産の山を前にして、ただ一人ぽつんと取り残された。
「……俺たちの、血のにじむような努力は、一体……」
静まり返った廃植物園の前に、トップギルドマスターの虚無に満ちた呟きだけが、夜風に乗って虚しく響き渡っていた。




