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初期装備の最適解  作者: リリリリス


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第15話:トッププレイヤーの絶望と放置された宝の山

「……5万、8千……? なんだこのふざけたスコアは!?」


南門の最前線。


トップギルド『聖剣の誓い』のマスターであるアルフレッドは、空中に浮かぶランキングボードを見上げて、思わず剣を取り落としそうになった。


自分たち『聖剣の誓い』は、ゲーム内でもトップクラスの精鋭50人を集め、互いにバフを掛け合い、ポーションを湯水のように使いながら、一歩も引かずに魔物を狩り続けてきた。


それでも、アルフレッドの個人スコアは15,200pt。

対して、現在1位の『ナナシ』というプレイヤーは58,000pt。


「あり得ない! 北門から来るのは、物理耐性の高いストーンゴーレムと、武器を破壊するアシッドスライムだぞ!? あんなもの、魔法使いの集中砲火でもしない限り、効率よく狩れるはずがない!」


アルフレッドの隣で、副マスターの魔術師が顔を青ざめさせながら叫んだ。


「マスター! これは間違いなくシステムのバグか、不正ツールです! もしくは『ナナシ』という名前の裏で、数百人規模の隠れ巨大ギルドが北門を独占しているとしか思えません!」


「……ああ、同感だ。運営に通報するにしても、まずは証拠が必要だ」


アルフレッドは歯を食いしばり、数人の精鋭メンバーを引き連れて南門の防衛を他の者に任せると、全速力で第一の街を横断し、北門へと向かった。

もし不正なら、絶対に許せない。


自分たちがどれだけの時間と資金リアルマネーをポーション代につぎ込んできたと思っているのか。


怒りと義憤に駆られながら、彼らは北門の『廃植物園』の入り口へと辿り着いた。

しかし、そこに数百人規模の巨大ギルドなど存在しなかった。


アルフレッドたちが目にしたのは、彼らのゲームの常識を根底から粉砕する、あまりにも異常な光景だった。


「なん、だ……あれは……?」


廃植物園のボトルネックとなる巨大なアーチ。

そこには、たった一人の男が立っていた。

『初期の布服』に、『初期の木の棒』。


間違いない。街の広場のベンチからログインしてきたと噂になっていた、あの『ナナシ』だ。

彼は一歩も動いていなかった。


ただ、アーチの奥から次々と押し寄せてくる巨大な魔物の群れを、淡々と迎え撃っている。


アルフレッドたちは息を潜め、岩陰からその「戦い」を凝視した。


『ゴゴォォォッ!』


体長3メートルを超えるストーンゴーレムが、丸太のような拳をナナシの脳天目がけて振り下ろす。


「おい、危ない――!」


副マスターが思わず声を上げそうになった瞬間。

ナナシはバックステップすら書かなかった。ただ、ほんの数センチ、首を右に傾げただけ。


ゴーレムの巨大な拳が、ナナシの髪の毛をかすめるような超至近距離を通り過ぎ、地面を激しく粉砕する。


「なっ……!? 今、スキルを使わずに、ただの目視で避けたのか!?」


アルフレッドは戦慄した。VRMMOにおいて、敵の攻撃をミリ単位の生身の反応速度で回避するなど、人間の業ではない。


さらに異常なのは、その後の攻撃だった。

ナナシは、大技のスキルを放つ前のタメ(硬直)の動作を一切挟まない。


避けた勢いをそのまま利用するように、右手に持った初期の木の棒を、ゴーレムの膝元へ向かって無造作に振り抜いた。


『パァァァァンッッ!!!』


激しい衝撃波。

次の瞬間、鋼鉄の剣すら弾き返すはずのゴーレムの脚部が、内側から爆破されたかのように木っ端微塵に粉砕され、巨体が前のめりに崩れ落ちる。


「一撃……。嘘だろ、ただの木の棒だぞ……!?」


間髪入れず、ゴーレムの背後からアシッドスライムが強酸の飛沫を撒き散らしながら跳躍してきた。

触れれば装備がドロドロに溶ける悪夢のモンスター。


だが、ナナシの目は完全に据わっていた。

彼は木の棒を引き戻すことなく、ビリヤードのキューを突くような鋭いモーションで、スライムの身体のど真ん中へ突きを放った。


『パァァァァンッッ!!!』


強酸のゼリーをすり抜けた棒の先端が、スライムの内部で高速移動していたピンポン玉サイズの『コア』を、寸分の狂いもなく正確に撃ち抜いたのだ。


弾け飛んで霧散するスライム。


「おい、見ろよ……あの棒、強酸に触れてるのに傷一つついてない……」


「それだけじゃないわマスター……あの男、攻撃の合間に『呼吸』すら乱れてない。システムのアシストを全部オフにして、自分の肉体感覚だけであの精度を出してるのよ……!?」


一分の隙もない、まるで精密機械のオートメーション工場のような戦闘。


アルフレッドたちは、そのあまりにも洗練されすぎた、そして理不尽すぎる戦いぶりに、ただただ圧倒されて動けなくなっていた。


ふと、アルフレッドはナナシの足元に目を向け、さらに息を呑んだ。


そこには、倒された魔物たちがドロップした『ゴーレムの核』や『強酸の粘液』といった高額なレア素材が、足の踏み場もないほどに『放置』され、山脈のように積み上がっていたのだ。


「あ、あんな量のレア素材……全部売ったら数千万G……いや、億を超えるぞ!? なぜ拾わないんだ! Upper(上位)ギルドなら喉から手が出るほど欲しい素材だぞ……!」


あまりの光景に、アルフレッドは無意識のうちにふらふらと前へ歩み出てしまっていた。


「き、君は……一体、何をしているんだ……?」


震える声で問いかけたアルフレッドに、ナナシは木の棒を振るう手を止めることなく、チラリとこちらへ視線を向けた。


「見ればわかるだろ。出前の受け取り中だ」


「で、でまえぇ……?」


「向こうから勝手に高ポイントの敵が歩いてきてくれるんだ。わざわざ動き回って索敵するなんて、非効率な真似はしてられないからな」


ナナシはひどく呆れたような顔をして、ため息をついた。


「それより、君たち。悪いが少し下がってくれないか?」


「えっ……? あ、ああ、狩場を独占するつもりはない、ただ我々は君のスコアがあまりにも――」

「いや、そうじゃなくて」


ナナシはアルフレッドの言葉を遮り、冷徹な効率主義者の目を向けた。


「君たちがそこに突っ立っていると、魔物の『進行ルート』がズレて、俺が腕を振る角度を数センチ修正しなきゃならなくなる。スタミナの無駄なんだよ」


「…………は?」


「タイムパフォーマンスが落ちるから、見学するならもう少し離れたところでやってくれ」


アルフレッドの脳が、完全に思考を停止した。

目の前の男は、数千万Gの価値があるレアアイテムの山には一切見向きもせず。


自分の『腕を数センチ動かすスタミナ』をケチるためだけに、トップギルドのマスターに対して「邪魔だ」と言い放ったのだ。


「……すまない。邪魔をした」


アルフレッドは完全に心が折れたような虚ろな表情で、指示された通りに数歩後ろへと下がった。


再び、男の「作業」が始まる。


衣服の擦れる音。木の棒が風を裂く、極めて小さな音。


そして、魔物たちがワンパンで爆散していく、理不尽な破壊の音だけが、廃植物園のアーチに規則的なリズムで響き渡る。


アルフレッドたちは、もはや声をかけることすらできず、ただただ圧倒的な敗北感と共に、虚空を見つめて淡々と世界を蹂躙し続ける『最適化の悪魔』の背中を、震えながら見つめ続けることしかできなかった。

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