第13話:公式イベント開催と、究極の出前サービス
不要なUR宝箱を放置し、身軽な状態で第一の街『ベルグ』へと帰還した俺は、街全体の異様な熱気に気がついた。
広場にも、大通りにも、プレイヤーたちが溢れかえり、空を見上げて何やら騒いでいる。
俺も視線を上げると、視界の上部にデカデカと、全プレイヤー向けの『イベント開催アナウンス』が表示されていた。
《第一回公式イベント開催のお知らせ》
『防衛戦:魔物の大群から第一の街を護れ!』
開催日時:現実時間の明日20時よりスタート
内容:東西南北の四つの門から押し寄せる魔物の群れを撃退し、防衛ポイントを稼いで豪華限定アイテムをゲットしよう!
「なるほど。お祭り騒ぎってわけか」
周囲のプレイヤーたちは、かつてない大規模なイベントに向けて完全にヒートアップしていた。
「おい、急いでポーションと修理キットを買いだめしろ! イベント中は絶対に物価が上がるぞ!」
「防衛戦ってことは、何時間も連続で戦うんだろ!? スタミナ回復用の高い飯も買っとかないと!」
「タンク職を探せ! 前衛で壁になってくれる奴がいないと街に侵入されるぞ!」
誰も彼もが、明日の防衛戦に向けて手持ちのゴールド(資金)を限界まで消費し、必死にリソースのやりくりをしている。
俺はそんな彼らを横目に、広場の無料ベンチへと腰を下ろした。
「……イベントに向けてアイテムを買い込む、か。非効率だな」
俺はインベントリを開き、自分の所持金とアイテム欄を確認する。
所持金、ほぼゼロ。
回復アイテム、ゼロ。
スタミナ回復用の食料は、ギルドでもらう無料の黒パンのみ。
準備など、何一つする必要がない。
なぜなら俺の『初期の木の棒』は絶対に壊れないし、回避はすべて【マニュアル・オーバードライブ】で自前で行うため、回復薬も不要だからだ。
それに、俺はこの防衛戦イベントの『真の価値』に気がついていた。
普段、魔物を狩って経験値を得るためには、街の外へ出て狩場まで歩く『移動時間』と、移動にかかる『スタミナ消費』という無駄なコストが発生する。
「だが、この防衛戦イベントは……魔物の方から勝手に街まで歩いてきてくれるんだろ?」
移動時間、ゼロ。
索敵の手間、ゼロ。
「わざわざこちらから出向かなくても、経験値の塊が向こうから列をなしてやって来る。なんて素晴らしい『無料の出前サービス』なんだ」
俺はベンチに深く背中を預け、思わず感嘆の息を漏らした。
他のプレイヤーたちが「豪華なイベント限定アイテム(報酬)」のために身銭を切って準備している中、俺の目的は完全に違っていた。
ただひたすらに、歩かず、探さず、定位置で棒を振るだけで魔物が処理できる『究極のタイムパフォーマンス』を享受すること。
「明日は、東西南北、一番敵が密集してやってくる門に陣取るとしよう」
俺は完璧な効率化が約束された明日のスケジュールに満足し、現実世界での夕食の時間に合わせて、静かにログアウトボタンを押した。
「(それにしても……イベント限定アイテムなんて手に入れても、どうせ耐久値が設定されていて修理費がかかるんだろうな。やっぱり初期装備がナンバーワンだ)」
他のプレイヤーが血眼になって欲しがるイベント報酬すらも、俺にとっては『ランニングコストのかかる不用品』でしかなかった。




