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初期装備の最適解  作者: リリリリス


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第11話:物理無効のスライムと最適化されたビリヤード

街の外れにある『溶解の酸洞窟』は、噂に違わぬ異様な場所だった。

洞窟の入り口からは、鼻をつくような緑色の有毒ガスが絶えず噴き出している。


一歩足を踏み入れた瞬間、視界に赤いシステムメッセージが点滅した。


《警告:強酸エリアに侵入しました。装備品の耐久値が1秒ごとに激減します》


普通ならここで慌てて引き返すか、高価な耐酸コーティング薬を使ってから挑むところだろう。

だが、俺はそのままスタスタと奥へ歩を進めた。


俺の着ている『初期の布服』と、手に持っている『初期の木の棒』には、そもそも『耐久値』というパラメーターが存在しない。


ゲーム開始時に全プレイヤーに配られる、システム上の絶対的な保護設定(破損不可)だ。


「耐久値が減らないなら、どんなに強酸だろうがただの霧と同じだ。快適なもんだな」


他のプレイヤーが一人もいないおかげで、足元も非常に歩きやすい。


貸し切りのVIPルームを満喫しながら進んでいると、天井からボトボトと不気味な音がして、緑色の粘体が降ってきた。


『アシッドスライム』だ。


強酸の身体を持ち、触れるだけで剣士の武器をドロドロに溶かす。


さらに、分厚い粘液が衝撃を完全に吸収するため『物理攻撃無効』という、前衛職にとっては悪夢のようなモンスターである。


スライムは俺を見つけるなり、その身体をバネのように縮め、強酸の飛沫を撒き散らしながら飛びかかってきた。


俺は【マニュアル・オーバードライブ】でリミッターが外れた反応速度で最小限の回避を行い、すれ違いざまに木の棒をスライムの胴体にフルスイングした。


ボヨンッ、と軽い音が鳴る。


『Resist(無効)』


俺の視界に、ダメージ0を示す文字が浮かび上がった。


「なるほど。いくら【ミニマリスト】で攻撃力が跳ね上がっていようと、『物理ダメージ100%カット』の装甲を持たれていたら、計算上はゼロになるわけか」


俺は木の棒を構え直し、スライムの生態を素早く観察した。


普通、前衛の物理職はスライムと相性が悪い。だからこそ魔法使いにMPを消費させて、弱点属性の魔法でゼリー状の身体を蒸発させるのがセオリーだ。


だが、魔法を使うのはスタミナの無駄遣いであり、俺のプレイスタイルには反する。


「なら、どうやって物理で倒すか。……簡単な話だ」


俺の視線は、スライムの半透明な身体の中心に浮遊している、ピンポン玉サイズの赤い『コア』に注がれていた。


「ゼリーの部分が衝撃を吸収するなら、ゼリーを無視して中身の『核』だけを直接叩き割ればいい」


口で言うのは簡単だが、通常のプレイヤーには絶対に不可能な芸当だ。


なぜなら、核に武器を届かせるためには強酸のゼリーの中に刃を深く沈める必要があり、核を叩き割る前に武器そのものが溶けて消滅してしまうからだ。

だが、俺の『初期の木の棒』は――絶対に溶けない


『キュルルルッ!』


再びスライムが身体を縮め、俺の顔面を目掛けて一直線に跳躍してきた。


「よし、軌道は読んだ」


俺は避けない。

向かってくるスライムの中心点、その奥にある『核』の動きだけに極限まで集中する。


【マニュアル・オーバードライブ】によって、俺の体感時間は恐ろしいほどに引き伸ばされていた。

迫り来る緑色の強酸の塊。


俺はビリヤードのキューを突くように、木の棒を真っ直ぐに構え――スライムの身体のど真ん中へ、寸分の狂いもなく突きを入れた。


『――ッ!?』


木の棒は強酸のゼリーを一切のダメージなくすり抜け、内部で動く赤い『核』の一点にピタリと直撃した。


ゼリーによる衝撃吸収を完全にバイパスされた核に、【ミニマリスト】の極大ダメージ補正が乗った物理エネルギーが直接流し込まれる。


『パァァァァンッッ!!!』


内部の核が粉砕された瞬間、スライムの巨体が弾け飛び、緑色の飛沫となって四散した。


『Critical !!』


『99,999 Damage !!』


「完璧だ。これならスタミナ消費も最小限で済む」

俺は溶ける気配すらない木の棒を軽く振り、酸の飛沫を払い落とした。


『ピコン!』


『アシッドスライムの討伐を確認しました』


『討伐報酬:【強酸の粘液(売却額:3,000G)】を獲得しました』


ドロップしたアイテムのウィンドウを確認し、俺はため息をつく。


「3,000Gか。悪くないが……液体はインベントリに入れると重量でスタミナ消費が増えるんだよな」


俺は迷うことなく、他のプレイヤーなら血眼になって拾うであろう激レアアイテムを、足元の酸の沼にポイと蹴り捨てた。


「さて。誰もいない貸し切りの狩場だ。スタミナ消費を極限まで抑えたこの『串刺しループ』で、一網打尽にさせてもらうか」


俺は木の棒を肩に担ぎ直し、酸のガスが立ち込める洞窟のさらに奥へと、作業用のBGM代わりに鼻歌を歌いながら歩き出した。

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