#91 佐々峰姉妹の心配
学校全体がピリついてきた。
どの教室からもノートをめくる音、詠唱練習の声、ため息。
……なのに、俺はいつも通り。
チャイムが鳴いた瞬間に帰り支度をし、
廊下を歩いていたら──
「天竜くん」
「あら、今日ももう帰るの?」
振り向くと、佐々峰 莉亜と紫亜。
二人がそろって歩いてくるのは珍しい。
「おお…個別には話したことあるけど、二人揃ってんの初めて見たわ」
紫亜が、にこっと、いや、にやっと笑う。
「そうね〜。で、今日も帰宅? 試験前なのに余裕ねぇ?」
「まあな」
莉亜は静かに首をかしげた。
「あなたとは……治療魔法学で少し話して以来だったね」
紫亜がすかさず肘でつつく。
「え?そんなことあったの? 私初耳だけど?」
莉亜は淡々と「そうだったわね」と返す。
紫亜はさらに身を乗り出してきた。
「で、どうだったの? うちの姉と何話したのよ?」
「おいおい……なんでそんな楽しそうなんだ」
なぜか紫亜が“ネタを探す顔”。
莉亜があっさり言う。
「あなたが想像してるようなことは何もないわよ。
ただ……天竜くんの魔力、普通とは言えないわね」
紫亜は “そんなの当然” という顔で髪を払う。
「最初から知ってたわよ。あいつの魔力は……なんか変だもの」
「私は身をもって体感したのよ。……かなり鮮明にね」
莉亜がさらりと言うと、紫亜がニヤッと笑う。
「へぇ〜。玲磁くん、姉さんに何したの?」
「何もしてねぇよ」
言い合っていると、ふと紫亜が表情を変えた。
「ところで…魅亜なんだけどね」
莉亜も小さく息を吐く。
“妹の話”になると空気が変わる。
「魅亜……実技で火が怖いのはもちろんだけど、それ以前に、学科は本当に苦手みたいで」
紫亜が頬に手を当てて言う。
「あの子ね、家でも教科書を逆さまに読んでたのよ。
で、ページが“発火”して……お母さんに怒られてたわ」
……ああ、あったなそんな話。
ただでさえ佐々峰家の母親は、あの事故以来、火を嫌悪するようになったのに。
莉亜が、ほんの少しだけ眉を下げた。
「魅亜は頑張ってるわよ。
でも……“頑張り方”が下手。火を見ると手が止まるし、暗記も極端に弱いし……」
紫亜は逆に語気を強めてくる。
「魅亜はできる子よ! ただちょっと不器用で、焦げやすくて、勉強が大嫌いで……あと集中すると部屋が爆ぜるだけで!」
「それ、できる子って言うの?」
「言うのっ!」
莉亜はため息をつきながらも、どこか優しげだ。
「……まあ、天竜くん。
あの子と仲がいいんだから、少し見ておいてあげて。
私も紫亜も気にはしてるの」
紫亜もうなずく。
「魅亜、あんまり弱音言わないからね。……えへへ、妹かわいいでしょ」
「お前……妹の話になると急にキャラ変わるな」
「当然じゃない!」
莉亜が「はいはい」と姉妹の暴走を軽くいなす。
俺は二人のやり取りを眺めながら、
“あいつの不器用さ”を思い出していた。
教科書を逆さにして発火。
火が怖くて手が止まる。
覚える前に詠唱が飛ぶ。
──でも、誰よりも前を向こうとする。
「……まあ、魅亜は魅亜なりにやるだろ。あいつ、意外と根性はあるしな」
二人は微妙に驚いた顔をした。
紫亜「へぇ〜……」
莉亜「……それ、本人に言えば?」
「いや言わねぇよ。絶対調子乗るし」
紫亜は「それはそう」と肯定し、莉亜「……同感ね」と呟いた。
紫亜は魅亜のことになると暴走気味です




