#88 死刑宣告
昨日の影の騒動が尾を引いてるのか、
今日は教室に入った瞬間から、
みんなの視線が妙にこっちへ刺さる。
(いや、別に何もしてねぇだろ俺……)
変に気を使われてるのか、避けられてるのか……判別がつかない。
とりあえず、席に鞄を置いて伸びをひとつ。
窓から差し込む朝日がやけに穏やかで、
教室全体がまだ休日気分のままふわっとしていた。
その空気を切り裂くようにして、
ガラッ、と扉が開く。
沙羅先生が入ってきた。
いつもよりほんの少しだけ、口元が笑っている。
……嫌な予感しかしない。
⸻
「みんな、おはよう」
この瞬間、教室が静まる。
先生の機嫌がいい時は、大抵ロクなことがない。
「突然だけど──
**学科の中間試験、やるから。二週間後ね」
これが爆弾じゃなかったらなんなんだ。
「「「えええええええええええ!?」」」
魅亜は盛大にのけぞり、
虹矢は机に頭をぶつけ、
遥花は肩を震わせ、
理紅虎はフェンリルに顔をうずめて逃避。
魅亜なんて天井を見上げていた。
「ちょっ……先生、それ死刑宣告って言うんですよ……!」
沙羅先生は上機嫌のまま。
「大丈夫。死なないから。
……たぶんね?」
ほんとかよ。
⸻
「今回の中間試験は《基礎科目5つ》。
範囲は後でプリント渡すね」
【基礎5科目】
● 魔力基礎学
● 魔法史
● 魔法言語学
● 呪文詠唱学
● 魔法倫理学
その単語が並んだだけで、教室内のHPが数割吹っ飛んだのが目に見えた。
さらに追い打ち。
「試験は“学年順位”が出ます。ただし総合順位に反映されるのは進級時だけだから、今回はクラス替えはないよ」
ホッとする声と、絶望する呻き声が同時に上がる。
⸻
俺はというと、別に心臓が跳ねるわけでもなく、
まあ“来たか”くらいの感覚。
そんな俺を見て、瑞翔が小声で話しかけてきた。
「……玲磁。大丈夫なの?」
「ん? まあ……別に」
「べつに……?」
瑞翔の眉がひくっと動いた。
何かがおかしい、という顔をしている。
(そんなに不思議か……?)
俺としては、ただ落ち着いてるだけだ。
慌てても点は変わらない。
それだけ。
でも周りは、完全に
“なんでこいつだけ余裕なんだ問題”
として扱っているようだった。
⸻
クラスが壊れていく
魅亜は「勉強なんて燃やす……!」
遥花は「がんばる……がんば……あっ……」
理紅虎は「倫理学……僕は……だめなんだ……」
虹矢は「やるしかねぇだろ……!」
瑞翔は(……玲磁が一番不安だ……)
誰もが阿鼻叫喚していた。
昨日の影騒動の緊張も冷めてないのに、
さらに試験。
そりゃ混乱する。
⸻
「今回の中間は“基礎の確認”。
どれだけ実技が強くても、ここを落とすと伸びません。
……特に玲磁。聞いてる?」
先生が妙にこっちを見る。
俺は椅子に寄りかかったまま、軽くうなずいた。
「聞いてます」
満足げな表情を浮かべる沙羅先生。
(……いやこれ、絶対楽しんでるだろ)
クラス全員、同じこと思ってるはずだ。




