#78 はたから見たら迷惑客
舞台では朝が光を散らしながら踊り、
横から琉月の声が重なり、
碧の水の旋律が空気を揺らしていた。
……が。
俺たちの席だけ、完全に“別ジャンル”の空気だった。
皓が腕を組み、俺に言う。
「なぁ玲磁。芸術ってのは“勢い”だよな?」
「いや、なんで俺に振るんだよ」
陶之助がぼそっと呟く。
「勢いだけじゃ表現は完成しねぇだろ。
闇みたいに静かで深い“余白”があるから光が映える」
皓が噛みつく。
「いやお前の闇基準は怖ぇんだよ!」
そこへ貴満がピシッと背筋を伸ばしたまま言う。
「そもそも芸術とは“理論”であり“理念”です。
技術と構成、緻密な計算があって初めて作品は――」
「あーはいはい教科書だな」
陶之助が軽く流すと、貴満が睨んできた。
「京極君、今 私の話を雑にまとめましたね??」
「縮めただけだ」
その時だった。
鉄駔が低い声で、静かに、しかしすごい圧で言った。
「芸術とは物質だ」
俺たち全員が同じタイミングで振り向く。
「は?」
鉄駔は一点の迷いもなく続けた。
「形を与えられた物体こそが芸術だ。
すなわち――金属だ。
加工、構造、硬度……それらが極まった時、美となる」
皓が机に突っ伏した。
「いや錬金術の話じゃねーかそれ!」
「違わない」
「違えよ!!」
陶之助が少し笑う。
「真面目な顔で言うから微妙に説得力がありやがる」
鉄駔は満足そうに小さく頷いた。
「理解が早いな京極」
「理解はしてねえ。 勝手に仲良くするな」
そして――
理紅虎がぱっと顔を上げた。
その瞳は舞台の光に照らされて紅くきらめいていた。
「いや、違うよ!」
全員が紅――もとい 理紅虎 の方を見る。
理紅虎は胸の前で手を組み、まっすぐ言った。
「芸術って、“自然”だよ!
人間も、動物も、風も、モンスターも、魔法も……
地球に存在するすべてが芸術なんだ!」
皓が「おお……!」と感心し、陶之助も目を細めた。
貴満が真顔で言う。
「壮大ですね……!」
鉄駔だけは一切動じず、腕を組んで言った。
「自然は物質で構成されている。すなわち俺が勝る」
「勝ち負けの話じゃないよ鉄駔くん!!」
理紅虎が両手をぶんぶん振って否定する。
皓が俺の耳元で笑う。
「なぁ玲磁……理紅虎って、たまに詩人みたいだな」
「普段飄々としてるくせに、こういう時だけ真面目なんだよな」
貴満がメガネを押し上げる。
「ではまとめると――
勢い、静寂、計算、金属、自然……?」
俺はうんざりした顔で言った。
「まとめると余計に意味わからなくなってんだよ」
理紅虎が言う。
「でも、全部“間違いじゃない”よ。
芸術って、多分……答えが一つじゃないんだ」
俺も自然と笑ってしまう。
こいつ、ほんとに飄々としてんのに……こういうときだけ刺さる言葉を言う。
皓が腕を広げて叫んだ。
「よし決めた! 今日から芸術は“全員好き勝手に語るもの”だ!」
「結論になってねぇ」と呟く陶之助。
貴満は「むしろ混乱が増した気がしますが?」と頭を抱える。
鉄駔は短く「金属だ」と言う。
理紅虎は「ちがうよ!!」と納得いかない…
……という騒ぎをしていると、
舞台の音が一段階大きくなった。
光と水が会場全体に広がり、
朝が空中で輝くように跳ね、
客席の半分以上が息を呑んだ。
俺たちは――
……そこでも議論をやめなかった。
たぶん全員、馬鹿なんだと思う。
公演中、ずっと客席で論争をしている彼ら。
映像化したらやばそう。




