#77 公演前
講堂の前に着いた瞬間、俺は思わず口を開いた。
昼前なのに、講堂の外までざわついてる。
魔法芸術部の小公演って、こんなに人気なのかよ。
「うお……さすが芸術部。派手だな」
隣で皓が胸を張るように言う。
「だろ? 観客の“圧”が雷みたいだわ。ビリビリくる」
「観る側が緊張してどうすんだよ」
そう言いながら笑っていると、陶之助がポケットに手を突っ込んだまま周囲を見回した。
「……人、多すぎねぇか。芸術ってそんなメジャーだったか?」
「朝の人気だろ。あいつ女子人気すげーぞ? 最初の食堂で話した時から感じてたけど」
皓がニヤッと鼻を鳴らした。
「ふーん……俺も女子人気なら負けてねぇけどな?」
「ほう? どこ情報だ、それ」
陶之助が無言で睨むと、皓が不服そうに叫ぶ。
「なんでだよッ!?」
俺が笑いそうになったところで、
ふっと柔らかい風の気配が近づく。
「玲磁くん」
振り返ると、Eクラスの理紅虎がフェンリルを連れて現れた。
小柄で、どこか中性的な雰囲気の少年。
俺の方を見る目も、いつも通り淡く優しい。
「来てたんだね。……皓くんと陶之助くんとは、ちゃんと話すのは初めて、だっけ?」
皓がぱっと顔を上げる。
「おお、Eクラスの召喚術の奴か。噂は聞いてた。瑞翔とよく一緒にいるって」
理紅虎は少し照れたように笑った。
「瑞翔とは、まあ、気が合うっていうか。
あ、僕のこと“三賢組の柔軟担当”って言われてるらしいけど……それは否定したい」
「三賢組って言われてんの??」
皓が吹き出し、それに陶之助も口角だけちょっと上がっていた。
すると、
講堂の別の入口から、きっちりした足取りで二人が歩いてくる。
慈恩寺 貴満と、意志神 鉄駔。
やっぱり三賢組ってそういうことか。彼らがそろって登場すると、周囲の空気が一瞬だけ真面目になる。
貴満は小さく会釈した。
「以前はどうも……京極君には、戦闘術で“鍛えていただき”まして」
陶之助はそっぽを向く。
「鍛えてねぇよ。普通にやっただけだ」
貴満がむっとした顔になった。
この二人、中学の時からずっと犬猿の仲らしい。
戦闘術の授業での空気もかなりギスギスしてたしな。
鉄駔が、俺と皓、陶之助を見た。
「お前たちは悪ガキトリオと呼ばれているようだな」
皓がニヤッと笑う。
「知ってんのか。お前、体ゴツいな。鉄みてぇだな」
鉄駔は一切動じず、即答した。
「俺は人間だ」
「やっぱそれ言うんだな!」
俺が突っ込むと、理紅虎がくすっと笑う。
そこへ――
客席の方からざわざわと小さな悲鳴のような声があがった。
「出た……!」「天針 琉月……!」「宝生 碧もいる……!」
視線の先、舞台袖の近くで、
光をまとうような二人が並んでいた。
光属性らしい神聖さをまとった天針 琉月。
深い青の髪が揺れる、宝生 碧。
俺は思わず小声になる。
「やっぱ舞台に立つとすげぇな」
皓が腕を組む。
碧の方はホールをゆっくりと見回し、柔らかく微笑んでいた。
その瞬間、琉月と目が合い……一瞬だけ、空気が張りつめた。
皓が小声でつぶやく。
「……なんか今の、修羅場の前兆みてぇじゃね?」
「まぁ、美人二人集まると空気も変わるわな」
そんな空気の中、
ぴょこん、と舞台に飛び出すように姿を現した人物がいた。
オレンジの髪が目立つ、切追 朝。
その瞬間、客席が一気に沸騰する。
「よーし、今日もやっていこうかー! 魔法芸術部、小公演!」
俺は笑ってしまう。
「……あいつ、ほんとスター気質だよな」
陶之助が短く言った。
「ああいうの、嫌いじゃねぇ」
皓は胸を張り直す。
「さーて。せっかく来たんだし、じっくり観ていくか」
こうして――
悪ガキトリオと三賢組が、同じ列に並んで座るという珍事が起きた。
この時点で、すでに嫌な予感はしてた。
なんか絶対、
“まともに公演だけ見て終わる”って未来は来ねぇ気がしたんだよな。




