#75 腐れ縁
轟一が時計を見て、ぱんっと手を叩いた。
「よし、お前ら。そろそろ寝ろ。
……あ、弥来。お前は帰れ。ここ男子寮だぞ。あんま遅くまでいるなよ?」
弥来はソファの背にもたれたまま口を尖らせる。
「えー。つまんない。兄ちゃんたちと話してるほうが楽しいのに」
「そう言いつつ、絶対寝る前にお菓子食うだろ」
「食べるよ?」
即答だった。
皓が「素直すぎるだろ」と笑っていた。
弥来は結局、手をひらひら振りながら談話スペースを出ていく。
「じゃあね玲磁。また決闘部、見に来なよー!」
「行けたらなー」
扉が閉まったあとに、轟一も伸びをした。
「さて。俺も学校の仕事残ってんだ。お前ら、マジで早く寝ろよ?」
「先生こそ寝てくださいよ」
「先生はやめろっつってんのに!」
そう言いながらも楽しそうに寮を出ていく。
全部が雷みたいに明るくて騒がしくて、幸崎家らしい夜だった。
やがて俺と皓だけが残り、皓がぶつぶつ言いながら片付けを始める。
「……ったく、弥来はほんっと自由だよなぁ。俺の妹じゃなかったら惚れてるわ」
「兄妹でそういうこと言うなよ」
「いや事実だし!」
皓はチョコスティックの袋をくくりながら、ふっと俺を見る。
「……でさ、玲磁」
「ん?」
「お前、相部屋誰なんだ?」
「昴だよ」
「あーそっか。お前らのとこ平和だよな……」
そこで俺は、ふと聞き返す。
「皓こそ誰だっけ? お前んとこ相部屋」
皓は「あれ、言ってなかったっけ?」みたいな顔をした。
「俺はスエと相部屋だぞ?」
「…………は?」
脳が一瞬止まった。
陶之助。
あの地獄のような皮肉屋で、殴り合い三秒前みたいな悪ガキ仲間の一角。
あいつと皓が同室?
「いや、お前ら……
教室も部活も遊びもほぼ一緒なのに部屋まで同じとか……
本当に仲良しかよ」
「仲良くねぇよ!!」
皓は全力で否定してきた。
「スエと俺が仲良く見えるか!? あいつ毒舌だぞ!?
まず起きて“おはよう”の代わりに『寝癖ひでぇな雷ガキ』だぞ!?」
「想像つくわ」
皓は肩を落としながらも、少しだけ笑っていた。
「……でもよ。
スエと出会ったの、中学なんだ」
「へぇ……」
「今よりもっとガキで……俺が突っかかると、
アイツも“うるせえ電撃頭”とか言ってきてよ」
想像しただけでケンカの火花が飛ぶ。
皓はポケットに手を突っ込みながら、遠くを見る。
「何回も殴り合いした。
何回も止められた。
でもなんか……
“喧嘩しても次の日には隣にいる”みたいな感じでよ」
「……腐れ縁ってやつだな」
「そう。
アイツとは、ずっとそんな感じ」
皓は照れ隠しみたいに鼻を鳴らす。
「俺が名家とか、実技順位とか……
そういうのどうでもいいって顔で接してくんの、あいつだけなんだよ」
俺は苦笑した。
「……それ、もう仲良しじゃん」
「違ぇよ!! 違ぇって言ってんだろ!!」
皓は全力で否定するけど、
その声に棘はほとんどなかった。
どこか、誇らしそうで、
どこか、照れくさそうだった。
――本当に、“雷”みたいなやつだ。
ちなみに僕のイチオシキャラは陶之助です。




