#73 秘密
魅亜と別れ、遥花と俺の二人きりで並木道を歩く。
さっきまでの喧騒が嘘みたいに静かで、落ち葉が風にさらさら流れていく。
その途中で、遥花がふと立ち止まった。
「玲磁くん……ちょっといい?」
ゆっくり近づいてくる。
距離が半歩ずつ縮まって——
気づけば、息が触れそうなところにいた。
「今日……ありがとう」
「ん? 今日って……さっきも言ってなかったか?」
遥花は小さく首を振る。
「ううん……
あれは“遊んでくれてありがとう”で……
今のは……“助けてくれてありがとう”……」
俺は少し視線を落とす。
「助けたって……どのへん?」
「……“名家の残りひとつ”の話の時……
わたし、変になっちゃってたのに……
玲磁くん、すぐ気づいて……話をそらしてくれたでしょう?」
(ああ……そのことか)
遥花は胸元で小さく手を握りしめて、
ほんの少し震えていた。
「わたし……
ああいう話題……本当は苦手で……
でも、苦手だってばれたくなくて……
隠すのも、怖くて……」
言葉がつっかえたその瞬間。
俺は——迷わず手を伸ばした。
「そんなのよ……
お易い御用だよ」
優しく髪を撫でて、
そのままそっと肩を抱き寄せる。
遥花の体は驚くほど軽くて、
抱き寄せた胸のあたりから、
ほんのり“森の空気”みたいな、
冷たくて暖かい、不思議な感触がした。
(……これ、やっぱり……)
遥花の奥に眠る“何か”が、
ほんの少しだけ漏れ出したみたいな。
遥花は俺の胸に額を寄せながら、かすかに震えた声。
「……玲磁くん……?」
その声が外に漏れないように。
誰にも見られないように。
俺は指先を二度、空へ払った。
ひゅ――
微かな風の渦が俺たちを包み込む。
昔、仁公儀 蒼南が使っていた
“風の認識阻害結界”を真似した簡易式だ。
模倣だけど、十分。
この場所だけ、世界から少し切り離すことができる。
遥花が小さく目を見開いた。
「……え……いま……?」
「ちょっとしたズルだよ。
今だけ……俺たち以外、気づかねぇ」
遥花は胸元をぎゅっと握りしめた。
「玲磁くん……やっぱり……すごいよ……」
「違ぇよ。
すごいのは——遥花のほうだろ」
遥花が驚いたように顔を上げる。
俺は多くを語らない。
語れないし、語るべきでもない。
ただ、ひとつだけ。
胸元に手を添えて、
優しく、はっきりと。
「……一緒に強くなろう、遥花」
遥花は息を呑んで——
そっと笑った。
夕陽の中でふわっと花が咲くみたいな、
綺麗な、だけどどこか寂しげな笑顔。
「……うん。
一緒に……強くなる」
風の結界の中で、
世界が二人だけになる数秒間。
その静けさは、
遥花の秘密に触れる前触れのようで——
でも温かかった。
今回は予約投稿にしてみました。
また明日もお楽しみに。




