#72 あと一つの名家
昼食を終え、俺と遥花と魅亜は並木道を歩いていた。
木漏れ日が揺れていて、休日の午後ってだけで妙に心が軽い。
魅亜が両手を後ろで組みながら言う。
「そういえばさ、改めて聞くけど——六大魔法名家って結局どう分かれてたっけ?」
俺は歩きながら指を折っていく。
「佐々峰家、鷹波家、幸崎家、天針家、宝生家……で、あと一つ」
魅亜が「うんうん」と頷きながら歩調を合わせてくる。
「佐々峰家は研究と教育でしょ? うちの家ね!
鷹波家がリーダー担当で、空属性の生徒会長の家。
雷一家の幸崎家は治安関係、天針家は医療と宗教、宝生家は財政と文化担当」
言いながら、魅亜は胸を張る。たぶん自分の家を1番最初に言いたかっただけだ。
遥花が「ふふっ」と小さく笑った。
「魅亜ちゃん、ちゃんと覚えてたんだね」
「当たり前でしょ! 名家の娘だよ? あたし!」
俺は横目で見ながら軽く言い足した。
「で、五つまでは誰でも知ってる。
研究の佐々峰、統率の鷹波、治安の幸崎、医療の天針、文化の宝生……」
魅亜が足を止め、俺の方にぴょこっと顔を寄せてきた。
「じゃあ——“六つ目”ってなんなの?
あたし、その家だけ全然わかんないんだよね」
その瞬間、遥花の動きが明らかにぎこちなくなった。
指先が震え、さっきまで自然に揺れていたスカートの裾をぎゅっと掴む。
俺はその変化にすぐ気づいた。
「……遥花、どうした?」
遥花は一瞬だけ俺を見て、慌てたように首を横に振る。
「う、ううん……大丈夫。ほんとに」
魅亜はまったく気づかず、続きを言う。
「六つ目だけ謎じゃん?
うちの家でも全然教えてもらえなかったし……
“担当:非公開”とか意味わかんないんだけど」
遥花の肩がぴくっと揺れた。
(……やっぱり何か知ってるよな、この反応)
俺は一瞬だけ遥花を見る。
遥花は、木漏れ日の中で無理に笑おうとしていた。
「ほ、ほんとに……わたし、知らないよ? ね、玲磁くん……」
声が震えている。
その震えは、嘘をつくときのそれじゃなくて——
“触れちゃいけないものに触れられた”みたいな、そんな危うさ。
魅亜は気づかず、空を見上げて言った。
「でもさ〜、名家っていっても表に出ない家なんてあんのかな?
普通、名家ってドーン! って感じなのにさ」
「……まあ、あるんだろ。事情が」
俺がそう返すと、遥花はほっと息を吐いたように見えた。
魅亜は軽快に歩き出す。
「まぁ一年が気にする話じゃないか!
強い人がいるってだけでさ、ロマンあるよね!」
俺と遥花は視線を合わせる。
遥花はそうっと小さく笑い、
その笑顔の奥に、誰にも触れさせない“静かな何か”を隠していた。
俺の胸の奥に、昨日からの違和感が再び浮かぶ。
(遥花……やっぱりお前、“ただの一年”じゃねぇよな)
並木道を照らす午後の光は穏やかだったけど、
俺の中では、違う色の影が少しずつ濃くなり始めていた。




