#70 拮抗
学生街に入ると、
香ばしいパンの香りと、魔法インクの匂いが混じって漂ってくる。
魅亜がすぐにテンションを戻して、
俺の横にぴょん、と跳ねるように寄ってきた。
「ねえ玲磁、どこ先行く? なんか欲しいものある?」
「特にないけど……まあ文具屋でも行くか。
合研部、何かと使うし」
「よし来た! 今日あたし玲磁にいっぱい聞きたいことあるんだよね〜!」
隣で遥花が、
ふわり、とだけ近づく。
「……わたしも、聞きたいな。色々……」
妙な静電気みたいな空気が、一瞬だけ走った。
俺は気づかないフリをして歩き続ける。
カラン、とドアを開ける前に、
魅亜が突然俺の腕に絡んできた。
がっつり腕組み。
「はいはい、今日は案内よろしくね、玲磁〜?」
遥花が、その瞬間——
「……あ」
小さく声を漏らして、俺の反対側の袖をすっとつまむ。
引っ張る力は弱いけど、
“離さない”って意思だけは強烈に伝わってくる。
魅亜が勝ち誇ったように俺を見る。
「ほら玲磁、どっちの腕が好き?」
「選ばせるな!!」
「だってさ〜、玲磁って鈍そうで案外鈍くないタイプじゃん?」
「それ褒めてねぇだろ」
遥花は腕を組むかわりに、
袖をつまんだまま、そっと俺の横顔を覗き込んだ。
「……玲磁くん、迷惑……?」
「い、いや、迷惑じゃねぇけど……」
「……そっか。よかった」
完全に“じわじわ攻めるタイプ”のそれだ。
魅亜は魅亜で、堂々と胸を張って俺の腕を抱えて離れない。
(……なんで俺、両サイドから圧かけられてんだ?)
と心の中で叫んでいると、
魅亜が本題を切り出した。
「でさ、玲磁。合研部、どうなの?
いつの間に七人も集まってたの? あんた有名人?」
「いや、有名人じゃねぇよ……。気づいたら増えてたんだよ」
遥花が小さく補足してくれる。
「紫亜ちゃんも……明日香ちゃんも……自分から来てくれて……
それで……大河くんもストッパーとして……」
魅亜は目を輝かせた。
「なにそれ! もう完全に“特別クラス”じゃん!
なんか……青春してる〜って感じ!」
「青春って……装置一個壊しただけだぞ?」
「壊した時点で青春してるの! 大事件=青春!」
遥花がくすっと笑いながら続ける。
「うん……でも、ほんとに賑やかになったよね……。
玲磁くんが、部長で……」
「いや部長じゃねぇよ」
「……勝手にみんながそう思ってるだけ、だよね?」
「そう言うなよ……」
魅亜は急に俺の顔を間近で覗き込んだ。
「……ねえ玲磁。
あんたさ、自分の想像より“中心人物”なんだよ?」
「そ、そんなキャラじゃねぇって」
「してるって。
天竜玲磁って“ふざけてるのに頼れる主人公タイプ”だもん」
「主人公じゃねぇし」
「いや、主人公だし?」
遥花もそっと言葉を添えてきた。
「……うん。玲磁くんがいると……安心する。
昨日も……時空の魔法で助けてくれたし……」
声が柔らかい。
手も離れない。
魅亜は魅亜で、俺の腕を組んだままニヤッと笑う。
「ほーん……ねぇ玲磁。
あたしから見ても“安心できる人”なんだよ? 一応?」
「なんで俺を取り合う流れになってんだよ!!」
どっちを見ても視線が刺さるので、
俺は文具屋のドアを押し開けて逃げるように店内へ入った。
「はいはい入るぞ!!」
「はーい」「……うん」
二人の返事は綺麗に重なった。
(あー……これは……絶対まだ何かあるやつだ)
そんな予感を抱えながら、
俺たちは魔法文具店の中へ消えていった。




