#69 休日
休日の朝の校門前は、いつもより静かだった。
淡い光が降りてきて、空気がどこかゆるい。
俺はポケットに手を突っ込みながら、遥花と魅亜を待っていた。
まず走ってきたのは魅亜だ。
靴音からしてテンション高い。
「お待たせーっ! 休日ってだけでテンション上がるよね!」
その勢いのまま、当然の顔で俺の腕を組みにくる。
……が、触れる寸前で“ふわっ”と影が差した。
横から柔らかくすり抜けるように、遥花が間に入ってきたのだ。
「玲磁くん、おはよう……」
声はいつも通り優しいのに、
立ち位置が絶妙すぎて、完全に魅亜をブロックしている。
魅亜は一瞬“えっ?”みたいな顔をした。
「お、おはよう。遥花」
俺が言うと、魅亜がじぃっと俺を見てくる。
「……ちょっと待って。玲磁、今“遥花”って呼んだよね?」
「あ、気づいた?」
「気づくわ!! いつの間に!?!?」
昨日の帰り道のことを思い出しながら答える。
「まあ……昨日、名前で呼んでもいいって言われたんだよ」
遥花がほんのり頬を染めながら、
小さくうなずく。
「うん……玲磁くんが呼んでくれるなら……うれしいから」
魅亜の口が “へ?” の形で止まる。
「……進展してない? え、してる? どっち???」
「してねぇよ! ……いや、違うんだけど違わないというか……」
俺が言葉に詰まると、
魅亜は「はぁ〜〜」とため息をついた。
その隣で遥花は、無言で俺と魅亜の間に立ちながら
相変わらず優しげに微笑んでいる。
その笑顔のまま、圧がすごい。
「……今日はのんびり歩こ。せっかくのお休みだし」
と、遥花が俺の袖をそっとつまんだ。
自然すぎて、
魅亜が一瞬だけ“敗北の顔”になったのを俺は見逃さなかった。
「んじゃ、とりあえず学生街でも行くか」
そう言うと、二人同時に「うん」と返ってきた。
魅亜は左、遥花は右。
三人並んで歩き出すと、木漏れ日が揺れて影がふわりと伸びた。
遥花が少し近い。
歩幅も合わせてきてる。
気づくと袖をつまむ指が、そのまま俺の手の甲に触れてきている。
(この自然さ……ほんと、ずるいよな)
そんなことを考えていると、魅亜がぽそっとつぶやいた。
「……ねえ遥花。さっきの“割り込み”さ」
遥花は小首を傾げた。
「割り込み……? なにが……?」
声はいつも通り柔らかいのに、
目だけが一切笑っていない。
魅亜は一瞬で折れた。
「……なんでもないです」
「うん、よかった……」
遥花はふわっと笑う。
柔らかいが、ぜんっぜん柔らかくない。
(こえぇ……でも可愛いのがまた厄介なんだよな…)
そんな微妙な緊張感と、休日の空気を抱えながら学生街に向かって歩き出した。
三人の影が並んで揺れるのを見ながら、
俺は思う。
(……この感じ、なんか悪くねぇな)
誰がどんな風に誘ったのかは想像にお任せします。




