#68 2-A 纏 彪我
ドアを閉めた瞬間、
肩から力が全部抜けた。
「……も、もう朝から疲れ果てたんだけど」
昴も同じように壁にもたれた。
「先輩と話すって、なんであんなにしんどいんだ……」
「いや、生徒会はもう次元が違うだろ……
“話す”じゃなくて“圧に耐える”だからな、あれ」
二人して廊下をヨロヨロ進む。
生徒会室の扉の威圧まで背中に残ってる気がする。
昴がぼそっと言う。
「てか右京さん、絶対人じゃないだろ……」
「空気を殴られた感じしたな……」
「六華さんも視線で斬ってきた……」
「楽さんは逆に何考えてるかわかんねぇ……」
疲労感だけは完全に一致していた。
その時だった。
足音——軽くて、妙にリズミカル。
こっちに向かってくる。
振り返ると、
青みのある黒髪を揺らして、
女子が振り向きそうな歩き方で、
生徒会広報・纏 彪我
がこっちに手を振ってきた。
(……なんで追いかけてきてんの?)
彪我はニコッと笑い、俺たちの前でストップした。
「やあ、玲磁くんに昴くん。
君たち……やっぱり只者じゃないねぇ?」
軽口なのに、
背後に“実力者の余裕”がにじむ声だった。
昴が苦笑しながら返す。
「いや、ただの一年ですよ……」
「うん、あの室内で平然としてた時点で“ただ”じゃないよ?」
「全然平然じゃなかったですけど……」
俺は思わず口を挟む。
「ていうか彪我先輩、なんでわざわざ追いかけて……?」
彪我は悪戯を仕掛ける猫みたいに細めた目で笑う。
「んー……気になったから?」
「気になる?」
「だってさぁ、
“三属性を爆発させた一年生がいる”って噂、
昨日から校内で回ってるんだよ?」
(は!? もう広がってんの!?)
昴が頭を抱える。
「……誰だよ言いふらした奴……」
「さあ? “広報の仕事”として情報網は強いのでね?」
この人……完全に確信犯だ。
彪我はふと真顔になり、俺の顔をのぞき込む。
「でもね、君たち。
危ないことをするときは――
ちゃんと上の人間に“恩”作っときなよ?」
「恩……?」
「うん。“守ってくれる人”は必要。
特に君たちみたいなタイプはね」
その口調には、軽そうでいて重い現実が混じっていた。
生徒会にいる理由の一端が垣間見えた気がする。
……と思ったら、次の瞬間。
彪我はパッと表情を明るくし、
何故か手を打った。
「そうだ! 最後にひとつ聞きたいことあったんだ!」
昴と俺は同時に嫌な予感がする。
「……なんですか?」
彪我はキラッとウィンクして言った。
「君たち……
どんなタイプの女の子が好きなの?」
俺と昴「「は?????」」
彪我は真顔で続ける。
「広報としてさ、“一年の有望株の好み”は把握しときたいんだよね?
ほら、女子向け広報誌とかで特集したいし?」
そんなの出さなくていい!!
昴は耳まで真っ赤になって叫んだ。
「勘弁してください!!!!」
彪我は軽く笑いながら、
氷の薔薇をひょいっと作り出し……
「じゃ、答えはまた今度聞くよ?
“逃がさないからね”?」
と言って、廊下を優雅に去っていった。
残された俺と昴は……ただ脱力。
「……なんで“広報”ってあんなに疲れるんだ……」
「精神力吸われるんだよ……アイツ」
「てか好みなんて聞いてどうすんだよ……」
「女子に配るんだろ……あの氷の薔薇と一緒に……」
二人して項垂れながら、
朝だというのに一日の終わりみたいな顔で
その場にしゃがみ込んだ。
(……生徒会って、やっぱり普通じゃない)
彪我は、明日香と同じく珍しい氷属性の使い手です。ただし性格は全く違います。




