#64 三属性実験
放課後の部室は、いつもより空気が張りつめていた。
紫亜が新しいノートを開いている。
昴が結晶の位置を調整している。
夢威は眠そうにしながら魔力を整えている。
遥花は小さく深呼吸して心を落ち着けている。
明日香は腕を組んで機材を睨んでいる。
大河は壁にもたれて、完全に“守衛”の顔。
そして沙羅先生は後方の監督席に座りながら、
(……嫌な予感しかしない……)
という表情を隠しもしていない。
俺は袖をまくり、深呼吸。
今日はいよいよ、
二属性 → 三属性への壁 に挑む日だった
まずはウォーミングアップ。
2属性の合体魔法を片っ端からチェックしていく。
風×土
火×風
闇×土
氷×風
……どれも綺麗に安定して、結晶は静かに光った。
紫亜が眼鏡を押し上げる。
「うん、やっぱりこのメンバーなら二属性は安定するわね。
調和の取れ方が異常なのよ」
昴は笑って肩を大きく回した。
「問題は……ここからだよな。
三属性に踏み込まねえと、合体魔法の“次”は見えねぇ」
俺は軽く手を叩いた。
「よし。……行くか、三属性」
沙羅先生がため息をこぼす。
「……お願いだから無茶しないでよ……ほんとに」
はい、フラグ回収了解。
⸻
まずは安全寄りの組み合わせで試す。
火(昴) × 風(夢威) × 土(遥花)
俺は時間流速を下げながら、
結晶の負荷をひとつひとつ確認していく。
「……いけてるな?」
昴が慎重に火力を調整する。
夢威はゆっくり手をかざして呟く。
「風……おとなしい……」
遥花は緊張しながらも、
しっかり土をまとめて魔力を供給している。
「が、がんばります……!」
結晶が光り、三つの属性が薄い層を作りながら融合し始めた。
紫亜が顔を上げる。
「安定してる……?
もしかして、三属性いける……?」
昴が口角を上げる。
「よし……このまま——」
そこで違和感が走った。
ピシッ
結晶の表面に細い亀裂。
紫亜が叫ぶ。
「待って! 負荷急上昇!!」
明日香も顔色が変わる。
「ちょ……これ、飛ぶわよ!!」
沙羅先生が椅子を蹴って立ち上がる。
「全員、下がって!!!」
⸻
次の瞬間、光が爆ぜた。
ゴォォォォォォッ!!!
風が暴れ狂い、
火が弾け、
土の粒子が竜巻のように舞い上がる。
俺は時魔法で反応を止めようとするが——
「——っ、時が掴めねえ!!
三属性がぶつかり合って流れが乱れてる!!」
昴が結晶台を押さえようとする。
「無理だ!! 飛ぶぞこれ!!」
紫亜が叫ぶ。
「完全に暴走よ! 理論が追いついてない……!」
夢威は涙目で風に押されながら必死。
「ひぃぃ……止まんない……!」
明日香は氷の展開を試みるが、火力にかき消される。
「火が強すぎ!! 氷が負ける!!」
遥花は土を固めようとするが追いつかない。
「とっ、土が……流れちゃう……!!」
思わず舌打ちした。
「やべぇ……!」
⸻
ドンッ!!
足元が揺れた。
暴風の中心へ向かって、
大河が地面を踏み鳴らして突っ込んでいく。
「——アースウォール!! 全面展開ッ!!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!!
巨大な土の盾が半ドーム状に展開し、
暴走する三属性を包み込むように受け止めた。
爆発する火花。
逆流する風。
舞い散る粒子。
全部、大河の“壁”が呑み込み、散らし、抑え込む。
「っだああああああああああああッ!!
いいから大人しくしろ三属性ぃぃ!!」
俺たちは壁の後ろで伏せるしかなかった。
沙羅先生は口を開けたまま固まっている。
(……一年でこれって……何者よこの子……)
光がようやく収束し、
大河のアースウォールがすうっと消えていった。
⸻
実験台は……まあ、もう形すら残ってない。
紫亜は深刻な顔で結晶の破片を拾い上げる。
「……完全にアウトね。結晶、死んだわ」
明日香も肩を落とす。
「これ修理に時間かかるわよ……」
昴は悔しそうに笑った。
「でも……ケガ人ゼロ。
大河、マジで助かった」
俺は大河の背中を叩く。
「ほんと命の恩人。
ストッパーどころか守護神だろもう」
大河は照れくさそうに鼻を鳴らす。
「うっせ。危ねえことすんなよ……
でもまあ……お前らといると退屈しねぇな」
沙羅先生は頭を抱えながら、
しかしどこか安心した声で言った。
「……無事でよかったわ。
次は、もっと慎重に……もっとよ……?」
俺は壊れた結晶を眺めながら、
胸の奥でワクワクが止まらなかった。
「三属性……“できない”って感じじゃなかったよな?」
紫亜は同じく悔しそうに、しかし目を輝かせる。
「ええ。
むしろ、もう手が届いてる。だから危険なのよ……」
昴は拳を握る。
「次は……絶対成功させる」
夢威「……お腹すいた……」
明日香「はいはい……」
遥花は胸を撫で下ろして、穏やかに微笑んだ。
「ほんとに……みんな無事でよかった……」
こうして。
合研部は初めて“本物の壁”にぶつかった。
でも、誰よりも分かってた。
——この壁、絶対越えられる。
他属性実験は最難関クラスです。




