#56 属性実験
部室の空気がひと段落したところで、紫亜が手を叩いた。
「じゃあせっかくだし、新しい組み合わせを試しましょう」
昴がニヤッと笑う。
「いいね。今日は新メンツいっぱいだしな」
俺もワクワクしてきた。
未知の組み合わせがあるなら、とりあえず試してみたい。
昴と遥花が並ぶと、なんか色味の相性が良すぎて映える。
「じゃ、桜さん。火と土でいくぞ」
「は、はいっ……!」
昴が火の魔力を立ち上げる。
いつもより抑えた炎だけど、鮮やかな赤がゆらめいた。
遥花は両手を前に揃え、土の魔力を丁寧に練る。
その姿勢が妙に“魔術師らしい”。
次の瞬間――
ヒュウ……
二人の魔力がふわっと触れた瞬間、
昴の炎が“紅葉の葉”のように枝分かれして散り始めた。
赤、橙、金――
ほとんど芸術作品のような燃え方だった。
「……なにこれ……めっちゃ綺麗……」
夢威がぽつり。
紫亜も珍しく声を漏らした。
「火の揺らぎを……土の安定が整えた? そんな器用な……」
遥花本人は驚きすぎて固まっている。
「えっ……わ、私……なんかしたんでしょうか……?」
昴は唖然とした顔で、
「いや、むしろ……
俺の火を ‘落ち着かせて’ こんな細かい形にしたの、遥花ちゃんだよ」
「えっ!? そ、そんな……!」
(……やっぱり遥花、ただの土じゃねえな……)
俺の胸の奥で、小さくざわつく感覚。
次は夢威と明日香。
この二人、対照的すぎて逆に相性良さそうだ。
「……ふゆ……すき……」
夢威がぽそっと呟く。
「勝手に好きにならないで。いい? 離れないでよ」
明日香はツンツンしてるが、魔力の構えは完璧。
二人が手をかざした瞬間、
サァァァァ――ッ
風が円を描き、その中に氷の粒が舞い、一気に吹雪が形をとる。
小規模なのに、視界が白くぼやけるほど密度がある。
「うわっ……冷たい!」
昴が肩をすくめる。
「……いい……これ、すごくいい……」
紫亜も感心したように頷いている。
明日香は表情を崩さず、でもほんの少し誇らしげだった。
「……まあ、このくらい当然よ」
夢威は手を胸に当て、うっとり。
「……明日香……雪……きれい……」
「や、やめなさいよ変なこと言うの!」
(……やっぱこの二人、地味に相性いいな……)
そしてラスト。
紫亜が遥花に向き直る。
「遥花さん。あなたの土、少し気になるの。手を貸して」
「わ、私でいいんですか……?」
紫亜は真剣な目だ。
「ええ。あなたの土……普通じゃない気がするのよ」
遥花は小さく息をのんで、両手を差し出した。
紫亜が闇をまとい、遥花の土と触れ合う。
次の瞬間――
ジュワッ……ッ!!!!
地面から黒い“根”のようなものが一気に伸びる。
しかも――
その根が“人の形”を象り始めた。
「――っ!? 分身……!?」
俺は思わず声が出た。
昴も固まってる。
明日香は目を細めて言った。
「闇の侵食に耐えてる……? 土属性で……?」
紫亜は完全に驚愕していた。
「……遥花さん。あなた……何者?」
「え、えっ!? えっと……普通の、土属性で……!」
「嘘。
土に“生命系統”の揺らぎがある……これは、ただの土じゃない……」
遥花は真っ青。
俺は小声で言う。
(……土は土でも、植物系か……)
紫亜が初めて遥花を“戦力として”真剣に見た瞬間だった。
「遥花さん……あなた、たぶんまだ “自分の本来の適性” を知らない」
「……っ」
「でも安心して。危険なものじゃない。
むしろ――可能性がとんでもなく大きいわ」
遥花は胸に手を当て、小さく震えていた。
「わ、私……そんな……」
俺はそっと肩に手を置く。
「大丈夫。ゆっくりでいい。焦んなくていい」
遥花はほっと息をつき、かすかに微笑んだ。
実験はどんどん進んでいます。
これだけ連続で合体魔法が成功すること自体、奇跡的な学年と言えます。




