#53 優しい昼下がり
治療魔法学の授業を終え、
俺と大河は並んで廊下を進む。
「腹減ったな、玲磁」
「だよな。魔力感知とかの微調整って、結構スタミナ持ってかれるんだよ」
大河は豪快に笑う。
「お前の魔力の流れ、普通の水でも火でもねぇ。面白いわ」
「いや土で“治療の芯”を教えてくる大河も充分変態だけどな」
「褒めんなって!」
そんなやりとりをしながら食堂へ近づくと――
入口前に掲示板が出ていた。
《本日:土属性フェア》
「これ今日だったんだな」
「よっしゃ。地層ミートローフ食おうぜ」
扉の向こうは、焼き芋とスパイスの匂いで満ちていた。
席を探して歩いていると、
柔らかい声が近くで聞こえる。
「琉月さん、このスイートポテト……綺麗ですね……!」
「桜さんは甘いものが好きなんですね。でしたら、ミートローフも評判が良いそうですよ」
遥花と琉月が、楽しそうにトレーを持って並んでいた。
玲磁と大河は目を合わせる。
「お、あのテーブル空いてね?」
「行ってみるか」
近づくと、遥花がぱっと笑顔になる。
「あ、玲磁くん! 玄機くん!」
大河は少し照れたように頭をかく。
「よぉ、桜さん。席、空いてるか?」
琉月が控えめに会釈する。
「どうぞ。私たちも何を食べるか相談していたところです」
4人は自然に同じテーブルへ座った。
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玲磁は“地層ミートローフ”、
大河は“土鍋スパイスご飯”を山盛り。
遥花は宝石のようなスイートポテト、
琉月は光るハーブティーとサラダ。
席につくと、話題は授業へ向かう。
「玲磁くん、治療魔法……すっごく綺麗だったよ」
遥花が穏やかに笑う。
「いやいや。俺より桜さんの方が向いてるだろ。土って治療と相性いいし」
「えっ、私……? そんな……」
頬が薄く色づく。
琉月がゆったりと続けた。
「でも桜さんは魔力の“流れ”が滑らかでした。輪廻先生も褒めていましたよ」
「そうなんですか……?」
遥花は照れながらスプーンを握る。
そこで大河がテーブルに肘を置く。
「玲磁、感じたか?」
「何を?」
「琉月さんの魔力。あれ完全に“光の治癒型”だ」
琉月は驚いたように瞬きをした。
「大河さん……分かったんですか?」
「まぁな。治療魔法やってると分かる。光の癖って特徴的だから」
遥花が目を丸くする。
「玄機くんって……やっぱり治療魔法、お上手なんですよね」
「得意だな」
その笑顔は完全に兄貴分のそれで、
琉月が小さく頬を染めたように見えた。
(……ん? 今なんか反応が違った?)
俺は思わず視線をそらす。
ふと、琉月が俺に向き直る。
「天竜さんは……治療魔法を選ばれたのが意外でした」
「意外?」
「時魔法を扱われる方は、攻撃や解析の方面に進む方が多いので」
「あー……」
玲磁はスプーンでミートローフを切りながら答える。
「治療魔法、時属性と相性いいって聞いたしな。
あと……“壊す”より“直す”方が好みなんだよ、俺」
琉月は、それを聞いて柔らかく微笑んだ。
「……素晴らしい考えだと思います」
その微笑に、玲磁は思わず息を呑む。
(なんだこの……本当に聖職者みたいな雰囲気)
遥花が嬉しそうに言う。
「琉月さんって、優しいね。玲磁くんと少し似てるよ」
「えっ」
(似てる? 俺と?)
大河がすかさず背中を叩く。
「よかったな玲磁。光に褒められるなんてレア中のレアだぞ」
「何がだよ! 意味分かんねぇよ!」
遥花と琉月がくすくす笑う。
テーブルの空気は、すっかり柔らかくなった。
食べ終える頃、大河が伸びをしながら言う。
「さて、そろそろ移動か。
桜さん、琉月さん、また治療魔法の授業でな!」
「はい、大河さん」
「玲磁くんも、またね……!」
玲磁は、なんとなく落ち着かない気持ちをごまかすように
大河の肩を軽く小突いた。
「お前、人の心の距離に気づくの早すぎだろ」
「昔っから感覚で分かるんだよ」
「アニキかよ」
「親分でもいいぞ?」
「それは絶対やだ」
笑い合いながら人混みに戻る。
後ろを見ると、
遥花と琉月が肩を並べて歩きながら
嬉しそうに話していた。
昼休みは、少しだけ4人の距離を近づけてくれた。
言い忘れていましたが、この手の物語にありがちな「属性や順位による偏見や差別」、「クラス間の不和」、「カースト」なんかはほとんど登場しません。
過去の事故がきっかけでの母から魅亜への火属性嫌悪や、陶之助と貴満の性格の不一致による犬猿の仲など例外はありますが
10000年の間に人類の価値観も変性した影響か、理由もなく胸糞悪いことをしない感じです。




