#52 ペアワーク3
「では、最後のペアに移りましょう」
輪廻先生の声が響き、
教室がまたゆっくりざわめきだす。
紙を見ると、俺の相手は――
桜 遥花
(……あー、やっぱ来たか。
“優しすぎる土属性”の彼女か)
目が合うと、遥花が小さく微笑んで、
胸の前で手をそっと揃えた。
「れ、玲磁くん……よろしくお願いします」
「あ、ああ。よろしく」
こんな距離で話すの、意外と初めてかもしれない。
クラスではよく話すけど、
真正面に向き合うと……なんか空気がやわらかい。
(……なんだこの、ほっとする感じ)
わけもなく呼吸が整う。
まずは彼女から。
遥花は両手を胸の前で合わせ、
深呼吸してから──
俺の前にそっと差し出した。
その瞬間。
地表のあたたかさ。
日だまり。
昼寝したくなる陽光みたいな魔力。
(……これ、優しすぎないか?)
輪廻先生がすぐ横に来て、
穏やかに微笑む。
「桜さん。とても良い波長です。
“自然治癒力の底上げ”に最も向いた土属性ですね」
遥花は少し驚いたように目を瞬かせる。
「わ、私……本当に向いてるんですか……?」
「はい。
光の治癒は外側から“直す”。
土の治癒は内側から“育てる”。
あなたの魔力量と性格なら、必ず伸びますよ」
遥花の頬がほのかに赤く染まった。
(……なるほどな。
このあったかい感じ、土だからっていうより……
“桜 遥花”だからこう流れるんだろうな)
輪廻先生は続ける。
「では次、天竜くん。受けてみましょうか」
「はい」
俺は遥花の魔力の“深さ”を真似して、
同じリズムで流れをつくる。
す……
遥花の桃色の髪が、そっと揺れた。
「っ……」
息を飲んだのが、はっきり聞こえた。
「すご……。玲磁くん、やさしい……」
「えっ、あ、いや……そんなつもりじゃ……」
「ううん。すっごく、ここが楽になる……」
遥花は胸の上に手を置いて、
ふわっと微笑んだ。
たぶん、今日いちばん自然な笑顔だ。
輪廻先生が解説する。
「天竜くん、あなた……
相手の魔力の“体質”に合わせてますね。
治療師の中でも、一握りしかできない高度な調整ですよ」
「え、そんなに?」
「はい。相性が良いのでしょう。
桜さんの魔力と、とても綺麗に共鳴しています」
……相性。
その言葉が、ちょっとだけ胸に引っかかった。
(相性……か)
遥花も同時にこちらを見ていて、
ふたりの視線がふわっと重なる。
「れ、玲磁くん……
また、いっしょに練習できたら……その……」
「お、おう。いいぞ。
俺も、やりやすかったし」
遥花の耳が、薄く赤くなる。
なんだこれ、
なんでこんな空気になるんだ。
教室の別組のざわめきが聞こえてくる。
――夢威×皓
「おい! なんで眠くなってんだよ!!」
「……雷、あったかいから……」
「褒められてる感じしねぇ!」
――莉亜×瑞翔
「す、すご……水魔力ってこんな安定してるの……?」
「あなたも悪くないわ。落ち着いた流れを持ってる」
――琉月×大河
「大河さんの魔力……包まれてるみたいです……」
「お、おぉ……そっか……!なんか照れるな!」
あの二人、いつの間にかめちゃくちゃ距離が縮まってんな……
いや、人のこと言えないか。
全体練習も終盤になり、輪廻先生が手を叩いた。
「はい、今日はここまでです。
みなさん、初回なのに本当によく頑張りました」
クラス全体がふっと緩む。
遥花は俺の袖をちょっとだけ掴んで、小さく言った。
「……今日ね、玲磁くんと組めて本当によかった」
「え、あ。うん。……俺も」
なんか、心の奥があたたかい。
(あー……この子と組むと調子狂う……けど、悪くない)
後に皓が、遥花とのやり取りを陶之助に言いふらした挙句、めちゃくちゃ茶化されたらしい。




