#51 ペアワーク2
「では次のペアに移りましょう」
輪廻先生の声に、教室の流れがまた動きはじめた。
俺は紙を見て息をのむ。
佐々峰 莉亜
(……マジかよ)
1-Aのトップ。
冷静沈着で、実技1位の化け物。
合研部にいる紫亜や、最高クラスの魔力値を持つ魅亜とはまた違う“本物のエリート”。
俺が歩いていくと、向こうも気づいたらしい。
莉亜は、ほんのわずかに顎を引いて俺を見た。
「……よろしく、天竜くん」
声が静かで、凪みたいだ。
水属性らしい、癖のない透明な音。
「お、おう。よろしく」
目の前に立つと、圧がすごい。
別に威圧されてるわけでも、怒ってるわけでもないのに……
(なんだこの“完成度”……)
紫亜も天才だったが、莉亜は別種だ。
混じり気のない“純粋な高位魔力”ってこういうことか?
輪廻先生が横に来る。
「このペアは、とてもいい勉強になりますよ。
天竜くんは“魔力の調整”。
莉亜さんは“制御の緻密化”。どちらも学ぶものがあります」
莉亜は軽く一礼。
「お願いします、先生」
…
「じゃあ、まずは私から流しますね」
莉亜が手を向けてくる。
距離にして50センチ。
触れてないのに、もう魔力が肌を撫でてくるのがわかった。
(うわ……これ……)
冷たくない。
むしろ、深海の温度だ。
一定の静圧で包まれて、
全方向からしっとりと沁みてくる感じ。
輪廻先生が小さく感嘆する。
「……さすがですね。
水属性の“浄化”の特性を自然に乗せている」
「回復の基礎は浄化から、と母に教わりましたので」
(……母? 佐々峰の母って確か、学会でも有名な……)
なんかもう世界が違いすぎる。
「では次、天竜くん」
「お、おう」
(落ち着け。火でも風でも闇でも、合体魔法の時は調整できた。
治癒は相手の状態に“合わせる”のが大事――)
莉亜の水魔力は静かだった。
なら、こちらは雑音のない流れを……。
俺は、一度呼吸を整えてから手を向けた。
すっ……
莉亜の前髪が、ほんのわずか揺れる。
「……っ」
一瞬、彼女の青い瞳が見開かれた。
輪廻先生がすぐ説明する。
「天竜くん、あなた今、
“属性を混ぜないまま、相手の魔力波長に合わせましたね”。
高度な治療師が使う感覚ですよ」
「え、そんなすごいの?」
「はい、本来は何年もかかります。
……天竜くん、やはり才能ありますね」
莉亜が静かに言った。
「……驚きました。
あなた、時属性だけじゃないのね」
刺すような言葉じゃない。
ただ、純粋な評価。
それが逆にこわい。
「い、いやまあ……興味があって色々やってるだけだし」
「努力でできる領域ではないわ」
はっきり言われて、ドキッとした。
紫亜とは違う圧。
魅亜とも違う。
“水の王女に見透かされてる感”がすごい。
でも、嫌な感じじゃなかった。
むしろ……
(なんか……この人と組むと、学習速度が跳ね上がるな)
教室を見渡す。
――皓×大河
「うおおおおっ!! できた!!」
「おおっ、いい感じだぞ皓!!」
……完全に兄貴と弟。
――遥花×琉月
「琉月さんの魔力、あったかい……」
「あなたの土は穏やかで優しいので、治癒に向きますよ」
空気がふわふわしてる。
――夢威×瑞翔
「……みずとくんの魔力、落ち着く……」
「いやなんで眠そうになるの?」
もはや癒し系ペア。
そんなこんなで第2ラウンドが終わった。
莉亜は最後に、少しだけ目を細めて言った。
「……良い経験でした。ありがとう、天竜くん」
「あ、ああ」
颯爽と戻る後ろ姿を見ながら、
(さすが実技1位……異次元だな……)
と心の底から思った。
そして、第3ラウンドは――
遥花 × 玲磁
(お、おい……なんか今日、心臓に悪いペア多すぎだろ……!)




