#50 ペアワーク1
輪廻先生が両手を軽く叩く。
その瞬間、教室の空気がふわっと澄んだように感じた。
「ではまず、基礎治癒魔法の魔力流しを二人一組で練習しましょう。
“魔力を乱さず相手に触れずに伝える”――これが基礎の基礎です」
金色の髪が光を受けて揺れる。
まじで“神職”って言われても納得するレベルの雰囲気だ。
「ペアはそこで指定しておきました。動いてくださいね」
俺は手元の紙を見る。
一回目の相手は――
玄機 大河
(おい。いきなりアニキかよ……)
クラスメイトたちもざわっとしていた。
「じゃ、天竜。よろしくな!」
身長195cmの巨体が、やさしい笑顔で手を振る。
近くに立つだけで“壁”みたいな迫力があるのに、声は信じられないほど柔らかい。
「大河、強面でアニキとか呼ばれてるけど声優しすぎだろ」
「ははっ、言われ慣れてるけど照れるな!」
輪廻先生が巡回しながら、別ペアの説明も聞こえてくる。
――莉亜と夢威
夢威がぼんやりしてる横で、莉亜が淡々と魔力の流し方を修正していた。
――皓と瑞翔
皓「ちげぇよ! そこ力入りすぎ!!」
瑞翔「だから言ってるじゃん、俺そんな魔力ないって!」
……すでにケンカ寸前。
――琉月と遥花
琉月が両手を重ねるようにして、遥花の魔力の流れを静かに整えてあげていた。
なんつーか……絵面が尊い。
輪廻先生が俺たちの前まで来る。
「天竜くん、大河くん。はい、構えて」
優しい声なのに、不思議と逆らえない迫力がある。
「まずは大河くんから天竜くんへ魔力を送ってみて」
「了解っす先生!」
大河が軽く手を向けてくる。
次の瞬間。
(……うわっ)
あったかい。
体の芯に、土の魔力特有の“地熱みたいなぬくもり”が染みてくる。
輪廻先生が微笑む。
「大河くんの魔力は安定してますね。土属性は“再生促進”の相性が非常にいいんですよ」
「大河って治療めっちゃ得意って沙羅先生が……」
「あぁ? あはは、やめてくれ照れるって!」
照れながら後頭部をかく大河。
いや、この巨体が照れるのギャップすごすぎだろ……。
「では次、天竜くん。大河くんに魔力を送ってみて」
(よし……火と風はできた。闇もできる。治癒は――)
手のひらに微量の魔力を集め、相手へ“暖かさだけ”を流すイメージで。
すっ……と空気が揺れる。
「……ほう?」
大河の眉が上がった。
輪廻先生が即座に反応する。
「天竜くん、その魔力……とても綺麗です。
属性を絞らず、相手に合わせて“最適化”してますね。すごい」
「えっ、そうなんですか?」
「はい。治癒の本質は“相手の状態に合わせること”ですから」
(なるほど……だから、時魔法とも相性がいいのかも)
大河が腕を組んでニカッと笑った。
「天竜、お前……すげぇな。
なんつーか、“包まれてる”感じの魔力だわ」
「お、おう……!」
兄貴分に褒められると語彙力が死ぬ。
他のペアにも目を向ける。
――皓×瑞翔
「おい! お前流す気ねぇだろ!」
「いやだから俺は平均だって!」
輪廻先生がすっと間に入り、
皓の手首をほんの少し持ち上げただけで魔力が安定した。
「皓くん。あなたの魔力は攻撃に向きすぎてるの。
“守る方が難しい”のよ。焦らないで」
皓が一瞬だけ真顔になって、
ちらっと瑞翔を見る。
「……妹守るためには必要なんだよ。これ」
瑞翔が目を丸くした。
(……こいつ、本気なんだな)
――琉月×遥花
琉月の光魔力が柔らかく広がり、遥花が驚いて小さな声を漏らす。
「すごい……月みたい」
「あなたの土の魔力、とても素直だから流しやすいです。
治療魔法、きっと得意になりますよ」
……なんだこの聖女空間。
こうして第1ラウンドが終わった。
輪廻先生が手を叩く。
「はい、よくできました。
では次のペアに移りましょう。準備してください」
(……治療魔法、思ってたより奥が深いな)
そして、次のペアは――
莉亜 × 玲磁
(……いきなりラスボス感すごいんだが!?)




