#49 治療魔法学
初めての選択授業。
俺は教科書を抱えて、特別教室へ向かっていた。
廊下を歩きながら、ふと胸がざわつく。
(治療魔法学、か……
攻撃魔法より絶対安全だろって思って選んだけど……
俺、治す魔法なんて触ったことねぇんだよな)
そんなことを考えつつ教室へ入ると――
すでに何人か集まっていた。
⸻
真っ先に目に入ったのは、
白髪の女の子──天針 琉月。
光属性らしい、柔らかい光が周囲に揺れて見える。
(……すげぇ。なんか神々しいぞこの子)
向こうはこちらに気づくと、控えめに会釈してくれた。
その近くでは、桜 遥花がノートを抱えて緊張している。
「は、はじめてですけど……がんばります……」
その震えた声が妙に可愛い。
後ろの席では、瑞翔がこっちを見て「おはよ」と軽く手を挙げてきた。
(お前、絶対“普通”なのにこういう場に馴染むの早いんだよな……)
そして――
なぜか隅の席で黄髪の男が机に突っ伏している。
「皓、お前なんでここにいんの?」
聞くと、皓は顔だけ上げて真剣な眼差し。
「妹を守るには……治療魔法が必要なんだよ。
オレがやんなきゃ意味ねぇだろ」
(……マジか。
こいつ、脳筋だけど本気で妹のこと思ってるんだな……)
さらに教室の後方では、
デカい影――玄機 大河が静かに座っていた。
「お、玲磁。お前も来たか」
「大河……!?」
いや、思わず声に出た。
(この人が治療魔法の天才って言ってたけど……
なんでよりによって“ゴリラ系格闘家”みたいな見た目の人が治癒得意なんだよ……)
横を見ると、緑の髪の夢威が既に舟を漕いでいる。
「むい……眠い……治す……」
(寝ながら治療とかホラーなんだが)
最後に一番前の席には、
水色の髪が揺れている――佐々峰 莉亜。
姉としての威厳か、すでに教科書を開いて準備万端。
(……佐々峰家の長女ってだけでもう迫力があるんだよな)
⸻
ふわり、と光が差したような気配。
次の瞬間。
カツ、カツ、とヒールの音。
金髪の女性が教室へ入ってきた。
希咲 輪廻先生。
光を含んだような髪。
穏やかな瞳。
澄んだ声。
(……え、天使?)
いや本当に、そう思った。
だって、教室の空気が一瞬で優しくなるんだ。
「皆さん、ようこそ。
今日から“治療魔法学”を担当します、希咲輪廻です」
柔らかい声なのに、全員が静かになる。
「まずは自己紹介をしましょう。
あなた達の“手”で、誰かの未来が守られるかもしれない。
そのために、私はここにいます」
なんか……
言葉がまっすぐ胸に入ってくる。
(この人……“本物”だ)
⸻
最初は莉亜。やっぱり落ち着いている。
次に遥花。緊張で声が震えていたが、輪廻先生は優しく微笑んだ。
「大丈夫。あなたの魔力は“優しさ”に満ちているわ」
遥花が少しだけ目を潤ませている。
大河の番になると、先生は一瞬驚いたように目を細めた。
「あなた……土属性で、ここまで治癒向きの魔力を持っているなんて……」
大河が頭をかく。
「はは、よく言われます」
(アニキ……やっぱ天才だった)
皓の番。
「オレは……妹を、守りたいんだ。
誰より強く、誰より治せる兄になりたい」
輪廻先生は柔らかく頷いた。
「あなたの雷は荒々しいけれど、
深い愛情も流れている。
焦らなくて大丈夫よ」
皓が耳まで真っ赤になる。
夢威の番は……
「むい……頑張る……眠いけど……」
先生はくすっと微笑んだ。
「あなたは“調律”の才能があるわ。治癒はリズムも大事なのよ」
(寝てるのに褒められるのすげぇな?)
瑞翔は普通に真面目。
「僕は戦闘力がないので……
せめて支援で誰かの役に立ちたいと思いました」
「とても良い心です。それは治癒の原点ですよ」
最後は俺。
「天竜玲磁です。
治癒魔法の“循環”や“再生”の仕組みに興味があって選びました」
輪廻先生は、俺をじっと見つめた。
まるで奥の奥まで見透かすように。
「……あなたの魔力。
“時間”に似た流れ方をしているのね」
一瞬、心臓が跳ねた。
(バレてる……この先生、見抜いていやがる)
でも次の言葉は予想外だった。
「きっと大変だけど……大丈夫。
あなたには“誰かを守りたい”という願いがある。
治癒魔法は、それに応えてくれますよ」
(……なんだこの人……優しすぎる)
⸻
輪廻先生は透明な小瓶を取り出した。
「まずは“魔力の触診”から始めます。
あなた達の魔力を私が見て、
その後に皆さん同士で手を取り合って“治癒魔力”を流してみましょう」
皓がビクッとする。
「て……手を!? 女子と!? 」
「なんでだよ!!」
大河は笑ってるし、遥花は顔真っ赤。
夢威はもう寝てる。
瑞翔はメモしてるし、莉亜は完璧な姿勢。
……カオスな学級だな、ほんと。
⸻
輪廻先生が優しく手を叩き、教室を見渡した。
「治療魔法の第一歩は――
“相手を知ろうとする気持ち”です。
みんなで、ゆっくり覚えていきましょうね」
その声に、なんか安心した。
戦闘術の緊張感とは真逆の、
じんわり温かい授業。
でも同時に、俺は気づいた。
(――この授業、“最強の回復チーム”が揃ってないか?)
大河、莉亜、琉月。
そして……遥花や夢威、瑞翔。
皓は…適性は未知数だが、本気だ。
そして俺もここにいる。
たぶん、この科目は――
後々、とんでもない意味を持つ。
そんな予感がした。
登場人物紹介
●天針 琉月
【性別】女
【適性】光
【総合順位】33位
【学科】11位
【実技】58位
【髪】白色ロング
【瞳】琥珀色
六大魔法名家のひとつ、天針家出身。代々光の家系であり、血縁者のほとんどが聖職に付く。清楚で、箱入りのためやや世間知らず。
●希咲 輪廻
【性別】女
【適性】光
【担任】2-A
【担当】選択科目・治療魔法学
【年齢】24
【髪色】金色
【瞳】茶色
人類で最も優しい人と噂される、回復魔法のエキスパート。
生徒の本質を見抜く目を持っている。




