表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アルテリア魔法学校で最下位合格した男の話  作者: 霧雨
第一章 入学編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

41/231

#40 化け物

四戦目が終わって俺と皓が戻ると、

演習場は妙に静かになっていた。


最後の組が呼ばれたからだ。


水無みずなし 寡燐かりんかすみ 瑞翔みずと


寡燐が立ち上がった瞬間、

近くの空気がわずかに揺れた。


赤と青のメッシュが光の向きで色を変え、

無表情の横顔は氷みたいに冷たいのに、

内側になにか燃えているようにも見えた。


瑞翔はと言えば――

肩をすくめながらも、

意地だけで前へ進むような歩き方。


(あいつ……めっちゃ緊張してんな)


でも、それでも行くのが瑞翔だ。



隣でひかるが眉を寄せる。


「……なんだあの子。

 水かと思ったら、火の気配もある」


「だろ? あいつ二属性だよ」

同じDクラスの陶之助すえのすけが淡々と答えた。


皓の目が一気に丸くなる。


「は? 二属性って……一年にいんの? 聞いてねぇぞ」


「推薦。校長が拾ったって話だ。

 気が向いた時しか喋らねぇけど、実力は本物だぞ。学科も実技も家の都合で受けられなかったんだとよ」


(陶之助が“本物”って言うの珍しいな)


と言うより、どっちも未受験で推薦してDクラスって、俺よりハンデあるのにスタートから違うのかよ。


俺は目を細める。

確かに、寡燐は遠くから見ても異様な静けさがある。


火と水――

普通なら相性最悪の組み合わせ。

どっちかが暴れればどっちかが消える。

それを両方扱うってだけで異質だ。


寡燐とは対照的に、

瑞翔は……本当に平凡だ。


歩幅もちょっとぎこちないし、

手の指が落ち着きなく動いてる。


でも俺は知ってる。

こういう時の瑞翔は“逃げる”って選択肢を取らない。


ルームメイトとして過ごして分かったことだ。


(怖いけど……それでも立つのが瑞翔)


皓は腕を組んだ。


かすみってさ、

 普通すぎて逆に読めねぇよな」


「だよな。

 あいつ、計算も魔力操作も平凡なのに、

 “根性だけは硬い”って感じ」


俺が言うと、

陶之助が少しだけ笑った。


「……そうだな。あいつは負けると分かってても逃げねぇ」


中央で沙羅先生が手を上げる。


瑞翔は喉を鳴らし、

寡燐は一切表情を変えない。


「始め!」


乾いた声が演習場に響いた。


瑞翔は即座に手をかざし、

教科書どおりの“水弾”を二つ繋げて作った。


球の形も、サイズも、速度も――

すべてが平均的で、特徴がない。


だけど。


(うん……瑞翔らしい)


丁寧で、崩れない。


彼の“人柄”そのままの魔法だ。


寡燐の手前、

水弾が迫る。


だが。


寡燐は動かない。


まったく。


水弾が届く一歩手前で――

寡燐の足元に、水の膜が波紋のように広がった。


同時に、

彼女の掌で微かに火が灯る。


赤と青が溶け合う。


何かが嫌な予感として背筋を走る。


「……あれ、同時発動か」

陶之助が小さく言う。


「同時って……あんな自然にやれんのかよ」

皓は唾を飲んだ。


寡燐の火と水が、

瑞翔の水弾に触れた瞬間――


空気が“ぐにゃり”と曲がった。


次の瞬間。


ごっ。


爆ぜた。


火力でも水圧でもない。

熱と冷の差によって生まれた“破裂”。


瑞翔の体が後ろへ吹き飛び、

床を転がった。


「……っ」


呻き声が漏れたが、立ち上がる。


よろよろでも、立つ。


瑞翔は頬の砂を拭い、

また構えた。


全身が震えてるのに、

目だけは逃げてない。


(あー……やっぱ、お前は強いよ)


強さの種類が違うだけだ。


寡燐が静かに言った。


「……無理を、しないで」


乾いた、でも真っ直ぐな声音。


瑞翔は歯を食いしばる。


「……負けるのは分かってる……

 でも俺、まだ倒れてない……」


会場が少しだけざわめいた。


寡燐のまつ毛がほんのわずかに揺れた。


それが彼女なりの“動揺”だったのかもしれない。


「……ごめんなさい」


寡燐は一歩踏み込んだ。


火と水が同時に寡燐の肩に揺れ、

小さな“熱の波”をつくる。


瑞翔の視界がゆらぐほどの、

静かな威圧。


避ける余裕なんてない。


ぽん、と。

ただ肩に触れただけ――

そんな弱い動きなのに。


瑞翔の体が深く沈み、

そのまま膝をついた。


完全に、力の差。


沙羅先生が静かに手を挙げる。


「…勝者、水無 寡燐」


瑞翔はその場に座り込んで、呼吸を整えている。


寡燐はほんの一瞬だけ迷って、

そっと手を差し出した。


瑞翔は驚きつつも、その手を取る。


「……ありがとう」


「……こちらこそ」


寡燐はそれ以上何も言わず、

観客席の影に溶けるように戻っていった。


瑞翔は立ち上がってこちらへ歩いてくる。


皓が頭をぐしゃっと撫でた。


「よくやったじゃん。

 あれは相手が悪すぎるわ」


「ああ。悪くねえ」

陶之助も珍しく褒めた。


俺も瑞翔の肩を掴む。


「……お前、普通って言われてるけどさ。

 あの“立ち方”だけはすげぇよ」


瑞翔は照れたように笑う。


「ありがとう。

 でも……普通代表とか言われてる俺には、無理ゲーすぎる」


「あれは……1年生にしては完成されすぎてるな」


そう言う俺の声は、

自然と熱を帯びていた。


寡燐は振り返ってはこなかった。

ただ淡々と歩いて消えていった。


でも――

今日の演習場の誰よりも強い印象を残して。


静かで、異質で、圧倒的。

火と水の二重奏。


彼女は……化け物だ。

登場人物紹介


水無みずなし 寡燐かりん

【性別】女

【適性】火・水

【総合順位】91位/150人

【学科】未受験

【実技】未受験

【髪】赤色に青メッシュ

【瞳】赤と青のオッドアイ

家庭の事情により受験することができなかったが、校長の推薦によりDクラストップの合格を果たす。

二属性を操る稀有な魔法使い。

性格は寡黙で一人でいることが多いが、不思議な魅力がある。

実はかなりの大食いで、食堂ではいつも大盛りを2人分食べているらしい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ