#38 悪ガキ対決
第三戦が終わり、
陶之介と貴満がそれぞれ席へ戻ると同時に、
演習場の空気が――
まるで“雷が落ちる前の空”みたいに張り詰めてきた。
たぶん、理由は分かってる。
次が俺の番だからだ。
「第四戦、天竜 玲磁。幸崎 皓」
沙羅先生の声が響く。
皓が勢いよく立ち上がり、
ニッと牙みたいな笑みを見せる。
「やっとだな、玲磁。
お前の戦い方、まだ誰も見たことねぇからよ――
ワクワクしかねぇんだけど?」
「対人戦ね。確かに滅多にやらないからなぁ」
俺は心臓が跳ねるのを感じながら立つ。
アルテリアでは初めての対人戦。
でも恐怖よりも期待の方が大きい。
周囲もざわつき始めていた。
魅亜が立ち上がりそうな勢いで叫ぶ。
「玲磁ーー!!! 頑張れーー!!!
皓も頑張れーー!!! ふたりとも応援してるーーー!!!」
瑞翔は顔色を変えている。
「玲磁、大丈夫かな……暴走しないといいけど」
「いや、瑞翔くん……雷のほうが危ないよ……?」
遥花が小さく呟く。
その目は緊張しすぎて潤んでいる。
遥花はこういうとき感情がすぐ顔に出るタイプだ。
(……なんか、すげぇ心配されてるな俺)
俺は苦笑しながら中央へ歩いた。
中央で腕を組んで見守っているのは――
皓の父、轟一先生。
雷の気配が常にまとわりついてるこの人は、
さっきまで“先生の顔”だったのに、
皓が出てきた瞬間――
にっこにこ。
「おーし皓!!
遠慮すんなよ!!
監督しとくからド派手に行け!!!」
(親バカ……!!)
沙羅先生が横から肘で小突く。
「あなたは“監督”なんですけど?」
「うっ……はい……!」
でも嬉しそうなのは隠せてない。
客席の前列には皓の妹、弥来がいた。
両手でメガホンみたいに口を囲って叫ぶ。
「お兄ちゃんがんばれーーーー!!!
でも玲磁くんも……ちょっとだけがんばれぇぇ……!!」
なんだよ“ちょっとだけ”って。
でも俺に気遣ってくれるのが可愛い。
陶之介は肩に腕を乗せて、
完全に冷静なモード。
「玲磁の魔法、実戦向けじゃねぇし……
皓は雷でゴリ押しだし……
まあ、見ものではあるな」
皓が聞いて噛み付く。
「テメェはどっちの味方だよ!」
「どっちでもねぇよ。お前ら勝手にやれ」
陶之介らしい。
完全に“観察者”だ。
ざわつく観客席からも声がいくつか聞こえてくる。
「玲磁って……魔法禁止されてたんだよな?」
「そうそう、基礎魔法以外禁止の男。なんかヤバいらしいぞ」
「でも戦闘は初めてじゃね?
何するんだろ……」
「というか時属性の戦闘って……?」
(……だよなぁ)
俺が沙羅先生から“危険だから制限”食らってるのは、
もう学年どころか学校中にバレてる。
だからこそ――
みんな、俺の初戦が気になって仕方ない。
皓は戦闘前だというのに嬉しそうに言う。
「玲磁。
お前が何を見せてくれるか……
マジで楽しみにしてるからな」
「ああ。期待していいぜ」
俺は胸を張って言った。
“勝てる”とは思ってないけど、
魅せる準備は全力でできている。
沙羅先生が中央に入る。
真剣な目つきで俺を睨んでくる。
「玲磁。あなたは“監督下”だから許可しています。
絶対に暴走しないこと。
少しでも危険だと思ったら止めます」
「分かってますよ、先生。
ちゃんと……綺麗に魅せます」
魅せる――
その言葉を聞いて、
皓がニヤリと笑った。
「よし……行こうか。
雷vs時なんて、そうそう見れねぇぞ」
そして――沙羅先生の手が上がる。
「……二人とも構えて。
第四戦――始め!」
空気が、ピシッと割れた。
雷光が皓の足元に走る。
俺はゆっくりと手を上げ……
掌の上に、“水の時計”を構築する。
観客席がざわっと揺れた。
ここから――
“魅せる”時間が始まる。
玲磁と皓。あの日の夜に実現しなかったカードです。




