#34 戦闘術
午後。
第二演習場に足を踏み入れた瞬間、胸がドクッと跳ねた。
「……でっけぇ」
円形コロッセオ。
高い天井から差し込む光で、砂の床が白く揺れて、
どこか「本物の戦場みたいな匂い」がした。
150人の魔力が集まると、空気が勝手にざわつく。
まるで空間が生き物みたいに、俺たちの興奮を吸って膨らんでいく感覚。
中央に立つ人物を見た瞬間、場の気圧が一段下がる。
雷みたいな髪を逆立てた大男――
幸崎 轟一先生。
うちの悪ガキ仲間・皓の父ちゃんだ。
声を張り上げると、雷鳴みたいに空気が震えた。
「今日は記念すべき最初の実戦だ!
各自、自分の属性と真っ向から向き合え!
そして――ぶつけろッ! 手加減なしでな!!」
その瞬間、肌がビリッとした。
言葉じゃなくて、魔力が皮膚を撫でてくる感じ。
皓が、俺の隣で呆れ顔でつぶやいた。
「……親父、絶対今日機嫌いいわ」
陶之介が鼻で笑う。
「お前と同じテンションだろ」
「は!? 俺あんなじゃねーし!」
俺はつい笑ってしまった。
「いや、似てる似てる」
「お前に言われると本気で不安になるからやめろ!」
いつもなら普通の言い合いだけど、
今日は演習場全体がピリピリしていて、
この軽口が逆にありがたかった。
緊張で胸が痛い。
でも、ずっとワクワクしてる自分もいる。
――今日は魔法が使える。
――しかも、沙羅先生の監督下である。
轟一先生が、パンッと手を鳴らした。
「まずは俺と、サポートの如月先生が模範を見せる!
如月先生、頼む!」
空気が一変する。
風の匂いがふっと立った。
沙羅先生が中央へ歩く。
軽い足取りなのに、空気の密度が変わるのが分かった。
皓が背筋を伸ばした。
「……やべ。先生、本気の顔だ」
「見本が沙羅先生って……豪華すぎんだろ」
俺の胸がぎゅっと高鳴った。
(これは……絶対に目を離せない)
観客席のざわめきが、瞬間――消えた。
雷。
風。
二人の魔力が正面からぶつかり合うだけで、
視界が一瞬揺らぐ。
轟一先生がニカッと笑った。
「行くぞ沙羅ちゃん! 雷鳴ッ!」
「“沙羅ちゃん”って呼ぶなって言ってるでしょう」
声と同時に、風が鋭く跳ねた。
ガッッッ!!!
雷と風が衝突し、
衝撃が横へ吹き飛ぶ。
生徒たちの髪が一斉に後ろへ流れる。
頬に砂が当たって痛い。
瑞翔が小さく叫んだ。
「これ授業……? 本当に……?」
理紅虎は目を丸くして呟く。
「うん……これはもう自然災害のカテゴリ……」
虹矢は興奮している。
「やべぇ……皓の親父、初日から全力じゃん!」
俺は震えるほどワクワクしてた。
(すげぇ……なんだこれ、超綺麗だ……)
雷の色は黄色じゃなくて白かった。
風の軌跡は透明なのに、刃みたいに光ってる。
二人の周囲だけ、世界が違うみたいだ。
風が巻き上がる。
沙羅先生の瞳が、すっと細まる。
(……間合い、変えた)
感じ取れた。
俺の“時”の感覚がわずかに触れたから。
轟一先生が足を踏み込む。
「くっ……やっぱり速ぇな、お前は!!」
沙羅先生がふわりと笑う。
「もちろんです。
雷は速いですけど――
風は、もっと気まぐれなんですよ?」
風刃が一筋、空を裂く。
雷が受け止める――
火花が散り、熱気が押し返す。
互角。
なのに、見える。
沙羅先生の一撃の方が、ほんの少しだけ“綺麗”だった。
轟一先生が、悔しそうに笑った。
「……参った。今回だけは俺の負けだな」
「風は、雷を流すのが得意なんです」
先生は息一つ乱れてなかった。
拍手が爆発した。
皓の声が一番大きい。
「よっしゃああ!!! 沙羅先生マジでつえぇ!!」
陶之介も興奮してる。
「雷を正面から切り裂く奴なんて見たことねぇ……」
俺は立ち尽くしたまま、
胸の奥がじわっと熱くなる。
あんなの……ずるいくらいに、綺麗だ。
風と雷。
力と技。
性格までそのままぶつかってるみたいで。
(……いつか、あそこに立てるかな)
そんな自分が思ってしまって、驚いた。
登場人物紹介
●幸崎 轟一
【性別】男
【適性】雷
【担任】3-D
【担当】実践科目・戦闘術
【年齢】38
【髪色】黄色
【瞳】黄色
幸崎家の大黒柱。皓・弥来の父親。戦闘訓練のエキスパートであり、対人戦のイロハを叩き込む。
生活指導も仕切っているが、リュウ校長に似ていて褒めて伸ばす性格な上、皓の父親だけあって自身もいたずら好きであるため、沙羅先生からため息をつかれることが多い。
しかし授業は一切手を抜かず、時には根性論を説くこともある熱血漢。




