#149 姉妹対決
訓練場が、目に見えて熱を帯びていく。
魔力が空気に混じり、肌に張りつく感覚がした。
訓練場中央。
雷のオーラをまとった轟一が、片手を高く掲げる。
「——いくぞ一年!!
手加減したらぶっ飛ばす!!」
……冗談じゃなく、本気で言ってるから笑えない。
観客席代わりの段差に、俺たち一年が腰を下ろす。
ざわつきはあるが、どこか緊張が勝っていた。
(これはもう、授業ってより公開処刑だな)
壁際に張り出された簡易ボードに、
最初の対戦カードが浮かび上がる。
◆ 第1試合
佐々峰 莉亜(1位) VS 佐々峰 紫亜(3位)
……なるほど。
いきなり“切り札”を切ってくるか。
「初手から姉妹対決とか、鬼だろ……」
誰かが呟いたのが聞こえた。
同意しかない。
(でも、轟一先生ならやるよな)
莉亜と紫亜が、ゆっくりとフィールド中央に進み出る。
距離は十数メートル。
互いに一歩も引かない。
——学年トップ。
——決闘部上位候補。
同じ顔立ちなのに、立ち姿はまるで違う。
莉亜は静かだ。
肩の力が抜け、魔力の流れも安定している。
“完成された強さ”。
一方、紫亜。
口元に薄く笑みを浮かべ、影が足元で蠢いている。
“攻撃的な才覚”。
(……最初に仕掛けるのは)
考えるより早く、轟一の声が落ちた。
「——始め!!」
その瞬間。
ドンッ!!
空気が裂けた。
水が奔流のように前に広がり、
同時に地面から闇が噴き上がる。
「っ……!」
観客席から、悲鳴に近い声が上がった。
視界が、一瞬で割れる。
莉亜は片手を前に突き出し、
水を“流す”ように操っている。
攻撃というより、制圧。
紫亜は低く笑った。
「お姉様、今日は勝たせてもらうわ」
影が彼女の背後で編まれ、
一本の槍の形を取る。
(速い……しかも無駄がない)
俺は無意識に、指先で距離と軌道をなぞっていた。
「甘いわね、紫亜」
莉亜の声は冷静だった。
水が螺旋を描き、
闇の槍と正面からぶつかる。
バシャァンッ!!
衝突のたびに、魔力の波が観客席まで押し寄せる。
顔をしかめる一年が続出する中、
轟一だけが腕を組み、楽しそうに笑っていた。
「……一年のレベルじゃねぇな。
完全に決闘部上位の火力だ」
(ああ、分かる)
魔力量、制御、判断速度。
どれも“模擬戦”の域を超えている。
数合、打ち合う。
時間にして、ほんの数十秒。
だが——
(……莉亜、誘ってる)
俺は気づいた。
莉亜は押しているようで、
実は一歩も前に出ていない。
紫亜の攻撃範囲に、わざと留まっている。
足元。
淡い水の紋様が、いつの間にか広がっていた。
「紫亜。
実技はまだまだ私の方が上よ」
低い声。
次の瞬間。
紫亜の影槍が、
ほんの一瞬——“遅れた”。
(水……拘束系か!)
水が鎖の形を取り、
影を絡め取りながら紫亜の腕と足を縛り上げる。
「……っ!」
動きが、完全に止まった。
紫亜は悔しそうに歯を食いしばり、
それでも笑った。
「……やられたわね、お姉様……!」
轟一が一歩前に出る。
「そこまで!!」
雷が鳴る。
「勝者——佐々峰 莉亜!!」
⸻
どっと、息が吐き出される。
(……強ぇ)
単純な魔力量勝負じゃない。
“試合としての完成度”が違った。
隣で皓が、口を開けたまま呟く。
「……なぁ玲磁。
あれ、本当に同い年か?」
「さあ。
少なくとも、俺たちが軽く手を出していい相手じゃないな」
陶之介は無言で、
紫亜が拘束を解かれるまでを見つめている。
(夏のトーナメント……)
あのレベルが、
“基準”になる。
俺は無意識に、拳を握った。
(面白くなってきた)
——これは前哨戦だ。
本番は、まだ先。
でも確実に、
俺たちはもう「平凡な一年」ではいられなくなっていた。




