#148 祭りの予告
夏休みまで、あと少し。
校舎の空気は浮ついているはずなのに——
実技訓練場に一歩足を踏み入れた瞬間、その甘さは粉砕された。
空気が、張りつめている。
肌に触れる魔力の密度が、明らかに違った。
(……雷鳴の前だな、これ)
訓練場の中央。
腕を組んで仁王立ちしている男がいた。
黄色い髪、鋭すぎる眼光。
そこに立っているだけで、周囲の魔力がざわつく。
——幸崎轟一。
雷属性の塊みたいな人間。
皓の親父で、決闘部の顧問で、戦闘術担当。
「よぉ~~し、一年ども!!」
その一声で、空気が震えた。
本当に、雷鳴みたいに。
「今日からお前らには、
夏までに“覚悟”ってもんを叩き込んでいく!」
隣で、小さく呟く声。
(……あ、これ来るな)
皓が肩をすくめて苦笑しているのが視界に入る。
陶之介も同時に察した顔で、俺と目が合った。
——そして次の瞬間。
バチンッ。
轟一が指を鳴らしただけで、雷が走った。
指先から弾かれた稲光が、空に放り投げられる。
「8月第3週!!
クラス対抗トーナメントを開催する!!」
——どよめき。
一瞬遅れて、訓練場全体がざわついた。
期待、興奮、不安、恐怖。
全部が一気に吹き上がる。
「1年から3年まで、A〜Eクラスの代表1名ずつ!
合計15名!
そこに教師陣推薦の特別枠を1名足して16名!!」
雷の尾を引きながら、
地面に円を描くように指を走らせる。
「全校規模の——最強決定戦だ!!」
……ああ。
完全に“夏休み前のイベント”のノリじゃない。
(殺しにきてるな、学校が)
一番最初に吠えたのは、やっぱり雷だった。
「よっしゃああ!!
Cクラス代表は俺だろ!!」
拳を握るたび、雷が弾ける。
テンションがそのまま出力に直結してやがる。
俺も思わず笑って、舌をぺろりと出した。
「面白そうじゃん。
どうせなら全属性で暴れてみたいよな〜?」
隣では、影が静かに揺れる。
「……こういうの、嫌いじゃねぇ。
AもBもCも上級生も、まとめて潰せるなら悪くねえ」
陶之介の目が、完全に“獲物を見る目”だった。
周囲の一年生たちが、
「なんだあいつら……」
「戦闘民族かよ……」
って距離を取るのが、はっきり分かる。
少し後ろで、深いため息。
「……はぁ。
絶対に巻き込まれるやつだ、これ」
瑞翔だった。
肩を落としながらも、どこか諦めきれていない顔。
隣で、穏やかな声がかかる。
「頑張ろう、瑞翔」
励まされても、首を横に振る。
(無理だろ……)
って顔をしてるくせに、
その目は、ほんの少しだけ輝いていた。
——見届けたい。
——あいつらが、どこまで行くのか。
観察者の血ってやつは、
こういう時に裏切らない。
雷が弾ける音と一緒に、手を叩く。
「ルールはシンプルだ!
魔法で相手を倒したら勝ち!!
決闘部と同じ基準だ!!」
その言葉に、空気が一段重くなる。
少し離れた場所で、低い声。
「……“倒す”って言い方、好きじゃない」
明日香だ。
表情は静かだけど、氷の気配がわずかに強まる。
胸元に手を当て、不安そうに視線を落とす子もいる。
一方で、微動だにしない者もいる。
(……当然よ)
って顔で立っているのは、莉亜。
紫亜は腕を組み、楽しげに微笑んでいた。
(これで強者が、完全に分かるわね)
夢威は、眠そうな目のまま一言。
「……楽しそう」
昴は静かに呼吸を整え、
完全にスイッチを入れている。
大河は腕を組み、腹の底から笑った。
「面白れぇ!
熱くなるなよ、お前ら!!」
轟一が、全員を睨めつける。
「今日からは“本気の訓練”だ!!
代表候補を見極めるため、容赦しねぇ!!」
雷鳴みたいな声が、訓練場に反響する。
俺は、自然と口角が上がった。
(……来たな)
皓が雷を弾き、
陶之介の影が濃くなり、
俺の中で、時の感覚が静かに研ぎ澄まされていく。
後ろで、瑞翔が胸を押さえて呟いた。
「……平和な授業が恋しい……」
——その気持ち、分かる。
でももう、後戻りはできない。
こうして、
クラス対抗トーナメントを前にした
“命がけの実戦強化期間” が、
はっきりと幕を開けた。




