#144 決闘の余韻
結界が完全に解除され、
張り詰めていた魔力の残滓も、ゆっくりと霧散していく。
鷹波 右京が、一歩前に出た。
その表情は厳しいが、どこか清々しい。
「正直に言う」
場が静まる。
「我々決闘部は、100年以上の歴史がある。
歴史があるということは——他のどこよりも、決闘に詳しいということだ」
その言葉には、誇りが滲んでいた。
だが、同時に慢心はない。
彪我が肩をすくめて、付け加える。
「歴史って言っても、ただ古臭いだけじゃないんだよ?
新しい知見も取り入れた上での、積み重ねさ」
ナルシストらしい言い回しだが、
そこに嘘はない。
右京は、はっきりと言った。
「我々は、全勝するつもりだった。
しかし結果は、6勝1敗」
一瞬、間が空く。
「この事実を重く受け止め、さらに研鑽を積む」
——その言葉に、決闘部の空気が引き締まる。
國丸が、すっと合研部の方を向いた。
「合体魔法研究部の皆も、良い戦いぶりでござった。特に——」
視線が、夢威に向く。
「夢威殿の速度、見事であった」
夢威は、少し考えてから頷く。
「うん……國丸先輩、またやろうね。忍者、かっこいい」
國丸の口元が、ほんのわずかに緩む。
「拙者は、いつでも待っている」
その優しい目と声色に、
(ああ……)と納得する。
やっぱり、忍先生の息子だ。
魅亜が、勢いよく手を挙げる。
「今度は、紫亜姉とやりたいな!」
紫亜は微笑んで、眼鏡を押し上げた。
「ええ。
その時は……妹でも、手加減はしないわよ」
魅亜は、にっと笑う。
「もちろん!」
弥来が、明日香に駆け寄る。
「明日香ちゃんの氷、綺麗だったよ!
またやろうね!」
明日香は少し照れたように視線を逸らしながら、
「ええ……機会があれば」
その空気を切るように——
彪我が、音もなく近づいた。
「桜 遥花さん……
遥花ちゃんって、呼んでいいかい?」
いつの間にか、手には氷の薔薇。
遥花は、完全に固まる。
「ええ!? わ、私、その……」
反射的に、俺は一歩前に出ていた。
「その薔薇、綺麗ですね!俺にくださいよ」
彪我が、きょとんとする。
「ええ……まあ、いいよ。
ほら」
氷の薔薇を差し出しながら、ニヤリと笑う。
「遥花ちゃんのこと、大事にしてあげなよ」
「別にそういうわけじゃないですけどね?」
俺は肩をすくめる。
「でも、遥花を彪我先輩に近付けるのは……
なんか、危険でしょ?」
「失礼だなぁ」
そう言いながらも、彪我は楽しそうだった。
一方で。
大河は、皓と陶之助と大声で話している。
「お前らとも、正面からやってみてぇなぁ!」
「はっはっは!」
皓が叫ぶ。
「いや、でかすぎるんだよ!
俺の雷でも、お前の壁を突破できるか分かんねぇぞ。
けど、やってみたいのは俺も同じだ!」
陶之助が腕を組む。
「魅亜の火竜は……
火力だけなら、正直規格外だな。
お前のアースウォールを破るとは」
大河が豪快に笑う。
「ああ! 初めて破られた!」
——気付けば。
敵も味方も関係なく、
皆が同じ輪の中にいた。
戦いの後だからこそ生まれる、
不思議な一体感。
右京が、昴の前に立つ。
「篝火 昴」
昴が背筋を伸ばす。
「お前は強い。
正直、ぜひうちに来てほしいくらいだ」
一瞬、場が静まる。
昴は、穏やかに笑った。
「ありがとうございます。ですが、俺は……」
右京は、頷く。
「ああ、分かっている」
そして、一瞬だけ——
俺の方を見る。
「合体魔法研究部は、お前が支えろ」
昴は、苦笑して答えた。
「はい。
玲磁は放っておくと、何するか分かりませんから」
右京も、わずかに口角を上げる。
「だろうな」
……胸の奥が、少し熱くなった。
負けた。
でも、何も失っていない。
むしろ——
手に入れたものの方が、ずっと多かった。
(次は……)
そう思いながら、
俺は仲間たちの輪の中へ戻っていった。




