#143 希望の炎
……現状。
合研部、全敗。
さっきまでの熱気が嘘みたいに、
胸の奥がじわっと重くなる。
(……やられたな)
負ける覚悟はしてた。
決闘部が本職なのも分かってた。
それでも——
一勝もできないまま終わるのは、正直キツい。
そんな空気の中。
椅子が、静かに鳴った。
篝火 昴が、ゆっくり立ち上がる。
派手な動きはない。
でも、その背中から伝わるものがあった。
——静かな火。
燃え盛る前の、芯の熱。
「玲磁」
名前を呼ばれて、顔を上げる。
「よくやった」
「後は、俺に任せろ」
……その言い方が、ずるい。
「お前……ほんと、頼りになるよな」
本音だった。
昴は肩をすくめる。
「気にするな」
「部長の失態も、副部長が帳消しにするさ」
「ははは……」
思わず笑ってしまう。
「お前さ」
「全部“二番手”とか言われてるけど……」
言葉を探してから、続けた。
「人間性も含めた総合力なら、間違いなく——」
昴が、俺を見て言う。
「それは、俺が勝ってから言ってくれよ」
……ああ、ほんと。
(かっこいいよ、お前)
その時。
決闘部側から、陶之助の声が飛ぶ。
「おい皓」
「お前やれよ」
指を親指で示しながら。
「初戦で紫亜とやってから、ずっと暇そうだったろ」
皓が、肩を鳴らしながら前に出る。
「ああ」
「応援だけじゃ、つまんねぇからな」
雷が、弾けた。
「やるわ!」
「——最終戦。
決闘部・幸崎 皓
対
合研部・篝火 昴」
結界が展開される。
(……火力もスピードも、互角)
(引かない二人だ)
開始と同時に、雷と炎がぶつかる。
轟音。
皓の雷は速い。
直線的で、破壊的。
昴の炎は——
爆ぜない。
“押し出す”ような、持続する火。
(……昴の炎、前と違う)
避けるのではなく、踏み込む。
雷を受け、焦げながらも前進する。
皓が叫ぶ。
「正面から来るかよ!!」
雷撃がさらに強まる。
(これ、普通なら止まる……!)
でも、昴は止まらない。
「——引くかよ」
低く、短く。
炎が、一段階、深くなる。
ただ燃える炎じゃない。
圧縮された、意志の火。
(……届く)
雷が走る。
同時に——
炎が伸びる。
一瞬。
ほんの、紙一枚の差で。
昴の炎が、先に皓を捉えた。
「——勝者!」
「合研部・篝火 昴!」
結界が解ける。
……静寂。
次の瞬間、
合研部側から、息を吐く音が重なった。
(……勝った)
全敗は、免れた。
俺は、無意識に笑っていた。
「お前……」
「やっぱ、最高だよ」
昴が、少し照れたように笑う。
「全員負けて帰るわけに、いかないだろ?」
……ああ。
この人が副部長で、本当によかった。
決闘部に負けた。
でも、誇りは残った。
そして俺は、はっきり思った。
(次は……俺も、ここで勝てるようになる)
その背中を、
もう一度、追いかけるために。




