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アルテリア魔法学校で最下位合格した男の話  作者: 霧雨
第二章 トレーニング編

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#141 戦う理由

「……私も……やってみる……」


その声は小さくて、

でも、決闘場のざわめきを確かに切り裂いた。


俺は思わず遥花の方を見た。


桜 遥花。

決闘が得意なわけでもない。

攻撃特化でもない。

正直、この流れで出すには——最悪の選択だ。


(……分かってるだろ、それ)


それでも遥花は、

両手を胸の前で握りしめながら、前に出てきた。


あの日。

俺たちが約束した日のことが、脳裏をよぎる。


——一緒に、強くなろう。


右京先輩が、静かに口を開いた。


「纏」


その一言で、

決闘部側から一人、前に出てくる影があった。


銀色がかった長髪。

整いすぎた顔立ちを、さっきから何度も鏡で確認していた男。


「くれぐれも、優しく教えてやれ」


右京先輩の声は淡々としている。


「はぁ……」


男——纏 彪我が、わざとらしく肩を落とした。


「あんな可愛い女の子と決闘するなんて、正直気乗りしないんですけどねぇ」

「でも、会長の頼みなら……仕方ない」


その瞬間、

合研部側から殺気にも似た空気が立った。


「……始まる前から腹立つわね」


紫亜が腕を組み、低く呟く。


「気をつけて、遥花」

「あの人、すぐナンパしてくるから」


「同感……」


明日香も眉をひそめる。


「同じ氷属性としては尊敬できるけど」

「……あの性格だけは無理」


俺は遥花の前に一歩出た。


「遥花」

「無理はするな」

「でも……逃げるな」


遥花は、俺を見て小さく頷く。


「……うん」

「後ろに、みんながいるの……分かってる」


その目は、怖がっている。

それでも、逃げていない。


(……ああ)


(それでいい)


右京先輩の声が響く。


「——第5戦

 決闘部・纏 彪我

 対

 合研部・桜 遥花」


結界が閉じる。


彪我は開始前から、余裕の笑みを浮かべていた。


「大丈夫ですよ、お嬢さん」

「怖かったら、すぐ降参しても——」


「……しません」


遥花の声は震えていたが、

言葉ははっきりしていた。


開始。


次の瞬間、

彪我の足元から氷が走る。


——速い。


洗練された氷の軌道。

攻撃と移動を同時に成立させる、決闘向けの魔法。


遥花は即座に地面へ手をついた。


土が盛り上がり、

防壁——だが厚みが足りない。


氷の刃が、壁を砕く。


「ほらほら、ちゃんと見てないと——」


彪我の声は軽い。

完全に、実力差がある。


それでも——


遥花の魔法は、違った。


砕けた土の隙間から、

蔓が伸びる。


花が咲く。


氷の上に、

淡い緑と白が広がっていく。


(……あ)


観客席が、静まった。


それは攻撃じゃない。

足止めでも、拘束でもない。


ただ——美しい。


氷と土と、

その間に芽吹く“生命”。


彪我の動きが、一瞬だけ鈍る。


「……へぇ」


本気の一撃が来た。


巨大な氷槍が、正面から叩き込まれる。


防げない。


遥花は吹き飛び、

結界の端に倒れた。


「勝負あり!」


彪我の圧勝だった。


……だった、はずなのに。


「ちょっと!!」


誰かが叫んだ。


「女の子にあんな攻撃するなー!!」


「やりすぎだろ!!」


「顔はいいけど性格最悪!!」


ブーイングが、決闘場を包む。


彪我は目を丸くし、慌てて手を振った。


「え!?いや、公式ルール通り——」


「うるさい!!」


完全に、悪者扱いだ。


遥花は起き上がり、

ふらつきながらも、ちゃんと頭を下げた。


「……ありがとうございました」


その一言で、

さらに空気が揺れた。


(……これが)


(遥花の強さだ)


決闘には向いていない。

勝てもしなかった。


それでも——


誰よりも、心を動かした。


俺は、静かに息を吐く。


(負けたけど)


(……悪くない)


決闘場の流れが、

ほんの少しだけ——変わり始めていた。

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