#138 雷と氷
皓が引き上げてくると、
決闘部側の空気は完全に乗っていた。
その流れの中で——
ひょこっと、前に出てくる影がある。
「次、あたし行っていい?」
幸崎弥来だった。
雷色の髪を揺らし、
兄と同じように、でも少し柔らかい笑顔。
「お兄ちゃん、カッコよかったしさ」
「なんか……じっとしてられなくて!」
皓が振り返り、目を見開く。
「弥来!? お前、出るのかよ」
「うん!」
「兄妹で勝ち星並べたら、絶対気持ちいいでしょ!」
その屈託のなさに、決闘部の空気がさらに沸く。
(……完全に“決闘部の空気”だ)
右京先輩は特に止める様子もなく、
淡々と視線を合研部へ向けた。
「対する者は?」
一瞬の沈黙。
そして——
明日香が、小さく手を挙げた。
「……私が行きます」
遥花が不安そうにこちらを見る。
「明日香ちゃん、大丈夫……?」
明日香は苦笑いした。
「正直、決闘は得意じゃないけど……」
「逃げる理由にもならないし」
(……らしいな)
そんな明日香の背中に、
昴がそっと声をかける。
「相手はAクラス並みの実力者だ」
「勝てなくてもいい」
明日香が振り返る。
「……え?」
「だから」
「自分らしい魔法でやってこい」
「それだけで、十分だ」
一瞬、明日香の表情が緩んだ。
「……ありがとう、昴」
結界が展開される。
「——第2戦
決闘部・幸崎弥来
対
合研部・鴇任明日香」
開始。
弥来は、いきなり走らない。
兄とは違い、柔らかい構え。
「行くよー!」
雷が、跳ねる。
「<スパーク・ステップ>!」
地面を蹴るたび、小さな雷が弾け、
不規則なジグザグ軌道。
「っ……!」
明日香は即座に氷を展開する。
「<フロスト・ライン>!」
床に氷の帯が走り、
弥来の進路を制限する。
(判断は正しい……!)
だが——
「甘いっ!」
弥来は、止まらない。
雷を足場にして、
氷の上を無理やり踏み越える。
「<ライトニング・リープ>!」
跳んだ。
上から——雷。
「くっ……!」
明日香は防御を張る。
「<アイス・ヴェール>!」
氷の膜が衝撃を受け止めるが、
雷は“面”ではなく“点”で砕きにくる。
バキ、と嫌な音。
結界が揺れる。
明日香は歯を食いしばり、
最後に——自分らしい魔法を放った。
「<スノウ・ガーデン>」
派手さはない。
だが、細かな氷晶が舞い、視界を奪う。
弥来が一瞬、動きを止めた。
(今だ……!)
明日香が距離を取ろうとした、その瞬間——
「見えてるよ!」
雷が、霧を裂いた。
「<サンダー・ドライブ>!!」
一直線。
——結界、完全破壊。
「勝者——幸崎弥来!」
弥来は、息を切らしながら、にっと笑った。
「つよかったよ!」
「あの雪、ちょっと怖かった!」
明日香は悔しそうに目を伏せ、
それでも、ゆっくりと頭を下げた。
「……ありがとう」
合研部に戻ると、
場の空気は重い。
だが——
俺は、肩をすくめて言った。
「決闘部を相手に、決闘で挑んでるんだ」
「そもそも勝てる方が奇跡だろ」
みんなが、少しだけ顔を上げる。
(負けた。でも——)
(何も残らなかったわけじゃない)
この対抗戦は、
まだ、終わっていない。




