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アルテリア魔法学校で最下位合格した男の話  作者: 霧雨
第二章 トレーニング編

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#129 玲磁が四人

演習場が、完全に静まり返った。


視線が痛い。

忍の目は、鋭いというより――測る目だった。


「——では、天竜玲磁。身体強化術、見せなさい」


軽く顎を引く。


(身体強化“だけ”なら、普通にやればいい。

 ……けど、今日は距離が近すぎる)


視界の端に、三姉妹。

袖をつまんだままの遥花。


(……ちょっとした遊びくらいなら、許されるよな)


足元に魔力を落とす。

踏み固めるんじゃない。流す。


空気が、わずかに遅れた。


風が後退する感覚。

光が“追いついてこない”。


——時属性。


そこへ、影のように寄り添わせる。


——闇属性。


重なった瞬間、

俺の存在が“固定”された。


分かる。

これは成功してる。


視界が、四方向に開いた。


「……消えた?」


「違う。分裂してる」


「えっ!?三人!?え、増えてる!?」


「ど、どれが……」


聞こえてくる声が、少し遠い。


俺は、同時に歩き出す。


四つの視点。

四つの距離。

四つとも、俺だ。


まず、水の気配が一番強い場所へ。


「莉亜、あんまり話したことなかったけどさ。

 今度、学年一位の水の魔法、見せてくれ」


一瞬、呼吸が乱れたのが分かる。


「……え? まあ、いいけど……

 それより、本当にあなた?」


探る目。

“どれが本物か”を測っている。


(冷静だな。でも……)


俺は視線を逸らさない。


次は、闇の密度が一番高い方。


「紫亜、闇の精度、また上がってた。

 展開速度が半拍、短くなってる」


息を呑む気配。


(あ、これは効いたな)


「……気安く褒めないで。

 理由も説明しなさい」


視線が鋭い。

完全に見抜こうとしている。


(……無理だって。俺だぞ)


三つ目は、一番分かりやすい熱量。


「魅亜、火の制御だいぶ良くなってきたな。

 次の演習、一緒に練習するか?」


「……え? え??

 いいけど!? え!?!?

 なんで増えてるの!?」


(うん、通常運転)


そして――


本体の俺は、遥花の前にいた。


ふわりと、近づく。


「大丈夫か?驚かせたな」


肩が跳ねるのが分かる。

袖をつまむ指に、力が入る。


「あの……どれが……

 “本当の”玲磁くんなの……?」


少しだけ、意地悪をやめる。


「ここだよ」


空気が変わった。


遥花の頬が、一気に赤くなる。


(……あ、やりすぎたか)


触れるか触れないかの距離で、

動けなくなってるのが分かる。


(危なっ)


周囲が一気にざわついた。


「本物の影分身じゃん」

「時と闇の合わせ技とか聞いたことねぇ」

「レベルおかしいだろ……」

「それ身体強化じゃねぇ!!」


(うん、まぁ……それはそう)


一歩、前に出る気配。


「——天竜玲磁」


全視点で、同時に振り向く。


「はい」


自分の声が、四重に重なる。


忍は、驚いていなかった。

ただ、面白そうに――観察している。


「すごいですね。

 ……でも、今日はそこまで」


やんわりと、釘を刺す声。


「お楽しみは、次の授業に取っておきましょう」


肩をすくめる。


(はいはい)


魔力を解く。


四つの存在が、同時に溶ける。

霧みたいに、闇へ還る。


残るのは、俺一人。


一拍遅れて、視線と感情が押し寄せる。


「身体強化術は、魔法の組み合わせで

 ここまで発展します。

 ……ただし、真似はしないように」


「無理だって!!」


演習場に笑いが広がる。


俺は、少しだけ息を吐いた。


(……さすがに目立ちすぎたな)


横を見ると、

三姉妹と遥花が、それぞれ違う表情で立っている。


理解。

警戒。

尊敬。

そして――確信。


(ああ……)


今日はもう、

「普通の生徒」ではいられないらしい。


それでも。


(悪くないか)


足元に残った微かな魔力の余韻を感じながら、

俺は次の指示を待った。

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