#125 ラストスパート
学習室へ戻ると、瑞翔はまだ机に向かっていた。
ランプの柔らかな光に照らされて、ノートは几帳面な文字で埋まりつつある。
(……ほんと、よくやる)
瑞翔が顔を上げた。
「おかえり。
……なんか、戻ってきてからの方が元気そうだね」
「気のせいだろ」
そう言いつつ、皓がパンの袋を机に置き、肩をぐるっと回す。
「元気っていうかさ……
鉄駔の言ってたこと、頭の中で反芻すると余計混乱するんだよ」
俺は椅子に腰を下ろして、思わず笑った。
「いや、あれは傑作だったろ。
“勉強は物質”“金属”……全部筋通ってるつもりで、
鉄駔の中では完全に整合性取れてるんだと思う」
陶之介が腕を組み、低く返す。
「鍛えられた鉄のような思考回路だ。
ある意味、羨ましい」
「俺は途中で頭がショートしたかと思ったぞ……」
「そりゃ、お前もだろ」
「ちげーよ!
俺は正直に生きてるだけなんだよ!」
勢いよく言い切ってから、皓は胸を張った。
「それにさ。
もう学科だって、あいつらに負けねえよ!」
(……言い切ったな)
その言葉に、瑞翔が小さく笑った。
「なんか……いいな、そういうの。
僕も、もっと頑張らなきゃって思えるよ」
俺は瑞翔の机に軽く手を置く。
「じゃあさ。
もう少しだけ——ラストスパート、詰め込もうぜ」
皓は拳を握りしめ、
陶之介は何も言わずにページを開く。
瑞翔も、新しいノートを引き寄せた。
夜はもう深い。
本来なら、眠気が勝ってもおかしくない時間だ。
それでも——
学習室の空気は、昼間みたいに熱を帯びていた。
(……悪くない夜だ)
三賢組も、悪ガキトリオも。
きっと今、それぞれ別の場所で同じように机に向かっている。
誰もが、自分の限界に。
ほんの少しだけ、手を伸ばし始めていた。
——その先に何があるかは、まだ分からない。
でも少なくとも今は、
終わらせる気なんて、誰にもなかった。




