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アルテリア魔法学校で最下位合格した男の話  作者: 霧雨
第二章 トレーニング編

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#124 勉強が金属だなんてことは絶対にない

夜の校内購買前。

照明は昼より落ち着いた色に切り替わり、廊下に人影が細く伸びている。


瑞翔は学習室に残った。

鉛筆の音だけが、あの部屋にまだ残っているはずだ。


「頑張れよ」


振り返りもせず、背中に軽く手を振る。

瑞翔は気づいているか分からないけど——ああいうやつは、放っておいてもやる。


俺と皓、陶之介の三人は、夜食を求めて歩き出した。


外気が少し涼しい。

皓が首を回しながら言う。


「しかし瑞翔、根性あるよな。

 俺ならもう寝てる」


「お前は授業中に寝てるだろ」


「うっせ……」


思わず笑いながら、自販機の明かりを見る。


「軽いの買って戻ろうぜ。

 あんまり遅いと、瑞翔が過労で倒れる」


「だな。……ん?」


皓が急に立ち止まった。


購買の前。

妙に整列した三つの影が、そこにあった。


丸眼鏡の貴満。

無表情で腕を組む鉄駔。

のほほんと立つ理紅虎。


——三賢組(ガリ勉トリオ)。


(……この時間に?)


皓の顔が、分かりやすく歪む。


「……なんでお前らが、夜食買いに来てんだよ」


貴満は、いつも通りの真面目な顔で答えた。


「勉強の区切りには、糖分が必要だと判断しました」


「……考えること、意外と似てんじゃん」


肩をすくめる俺に、

鉄駔が大きく頷いて、唐突に言い放つ。


「勉強とは……物質だ」


一瞬、全員が固まった。


貴満と理紅虎でさえ、顔を見合わせている。


「は?」


皓の声に、鉄駔は真剣な目で返す。


「金属だ」


(来たな)


陶之介の動きが止まる。


「……こいつ、勉強しすぎて壊れたか」


「通常運転です」


貴満が即座にフォローを入れた。


鉄駔は構わず続ける。


「知識は鍛えられた鉄と同じ。

 鍛錬すれば形になる。

 焼きが入れば強度が増す。

 錬金とは人生だ」


「そ、そうなんだ……?」


理紅虎が若干引きながら相槌を打つ。


俺は笑いを堪えつつ、貴満を見る。


「大変だな」


「……慣れました。

 理解すると案外面白いんですが、

 語り出したら止まらないのが難点です」


鉄駔は胸を張る。


「錬金術は止まらない」


「止まれよ」


陶之介の小声ツッコミが、妙に効いた。


⸻


購買の棚からパンを取りながら、俺は聞く。


「そういや、貴満。

 討論部だけじゃなかったんだ?」


「はい。

 鉄駔君の熱烈な誘いで、錬金術研究部も掛け持ちに」


「討論は言葉の錬金だ。

 錬金は物質の討論だ」


「だから何だよ」


皓の即ツッコミ。


貴満は少しだけ笑って続ける。


「錬金術は、理解すると奥が深いですよ。

 薬品合成だけでも、種類が多くて」


「分かる。

 俺も選択でやってる」


理紅虎が楽しそうに言った。


「召喚部も面白いよ。

 フェンリル、広い演習場で走り回れて……ずっと嬉しそう」


「お前、ほんと動物好きだよな」


「動物っていうか……家族、かな」


陶之介が、わずかに頷く。


「召喚は悪くない。

 意思疎通が成立しているのは……羨ましい」


「お前が使役したら、召喚獣が怯えるだろ」


「黙れ」


——でも、その口元は、ほんの少しだけ緩んでいた。


⸻


貴満が思い出したように言う。


「そういえば、討論部で……

 副部長の先輩がいるんですが」


「ん?」


「2年の、椛(もみじ) 吏紋(りもん)先輩。

 話術が異常で……僕でも歯が立ちません」


皓が驚いた顔で指差す。


「お前、なんで“自分は上手い側”前提なんだよ!」


「え? 失礼でしたか……?」


「そういうとこだよ!」


鉄駔が静かに言う。


「討論は鋳造だ」


「今日キレキレだな、鉄駔」


「いつも通りだ」


(嘘つけ)


⸻


夜食袋を抱えた俺たち三人と、

同じく袋を持つ三賢組。


並んで歩きながら、皓がぽつりと言った。


「……そういやさ。

 先週、学科で勝負するって約束したよな」


「はい」


貴満が小さく笑う。


「結果は……楽しみにしていてください」


「勝負って感じでもないけどな」


俺は横目で言う。


「お互い、上に行きたいだけだし」


「……悪くない並びだ」


陶之介が静かに呟く。


「相性悪いって聞いてたけど?」


理紅虎の疑問に、

俺と皓と陶之介は、同時に肩をすくめた。


「「「悪くはないんだよ、色々」」」


夜風が吹き抜け、

紙袋の中のパンがかすかに揺れた。


方向性は全然違う。

考え方も、属性も、性格もバラバラだ。


でも——

同じ夜に、同じ学園で、

同じ“先”を見ている。


(……まだ、仲間ってほどじゃないけどな)


それでもこの並びは、

悪くないと思えた。


——その自覚が芽生えるのは、

もう少し先の話だ。

登場人物紹介


●椛(もみじ) 吏紋(りもん)

【性別】男

【適性】?

【総合順位】3位/150人

【学科】3位/150人

【実技】3位/150人

【所属】討論部副部長

2年生で3位の実力を持つ。

異常に弁が立ち、討論をさせたら校内でいちばん強い。

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