#122 二人がかりで
ふと、皓がプリントから顔を上げた。
何か思い出したような、少しだけ悔しそうな顔だった。
「そういやさ……
決闘部で、俺と陶之介の二人がかりで
右京に挑んだんだけどよ」
俺は手を止める。
……ああ。
その話、聞いてなかったな。
陶之介はペンを置き、
目を閉じたまま静かに言った。
「途中までは……互角に見せられた。
だが最後の数秒で、全部持っていかれた」
「持っていかれた、って?」
俺が聞くと、
皓が悔しそうに鼻で笑った。
「“圧殺”だよ。
マジで、そうとしか言えねぇ」
皓は身振りを交えて語り出す。
「俺が雷で正面突破して、
陶之介が影で回り込んで、
“今だ”って瞬間があったんだ」
そこで、皓は一瞬言葉を切った。
「……次の瞬間さ。
空気が、なくなった」
「なくなった?」
「ああ。
攻撃が当たる前に、
空気ごと消された感じ」
雷も、影も、
“行き先”そのものを失った。
「俺らの魔法、
全部“吸われた”みたいになってさ。
当たった手応えすら、残らねぇ」
……なるほどな。
陶之介が目を開け、低く続ける。
「空属性は、理不尽だ。
対応範囲が広すぎる。
攻撃も、防御も、位置取りも……
全部“空間”で塗り潰される」
「抵抗しても無駄だと、
身体が理解させられる感覚……
あれが、最上位か」
俺は思わず、背筋を伸ばしていた。
——鷹波 右京。
空属性。
三属性合体の“軸”になれる存在。
(……そりゃ、勝てねぇわ)
「あの人さ、
空属性で三属性合体を制御したいって
本気で考えてるんだよな」
俺がそう言うと、
二人とも黙った。
「そんなやつが本気出したら……
一年生二人じゃ、無理だ」
皓は肩をすくめて笑った。
「悔しいけどな。
まあ……納得だわ」
でも、その目は折れていない。
「次は、もうちょい粘る」
陶之介は短く言った。
「次は——勝つ」
俺は頷いた。
「その意気だよ」
この二人は、
負けを“終わり”にしない。
だから、強くなる。
⸻
それからは、
ページをめくる音だけが学習室に残った。
皓は頭を抱えながら、
文を一行ずつ追っている。
陶之介は無駄のない動きで、
淡々と解法をなぞる。
俺は二人の間を行き来しながら、
時々、赤ペンを入れる。
夜の赤ノ寮。
静かな学習室。
いつもは騒がしくて、
破壊衝動で動く三人が——
今は、同じ目標を見ている。
(……悪くねぇな)
次の期末試験。
“学科トップ3”。
誰も知らないところで、
悪ガキトリオのもう一つの戦いが、
静かに始まっていた。




