#121 悪ガキ勉強会
放課後。
赤ノ寮の共用学習室。
普段なら、一・二年が静かに机に向かっている時間帯だ。
……が、今日は様子が違った。
俺と皓と陶之介。
いわゆる“悪ガキトリオ”が揃った瞬間、
周囲の生徒たちは目を合わせることなく、
一人、また一人と席を立っていった。
気づけば——貸し切り。
机の上には参考書とプリントの山。
だが、その中心にいる三人の空気は、
どう見ても「勉強会」じゃない。
⸻
皓は椅子の背にもたれ、
プリントを逆さに持ったまま、だるそうにぼやく。
「なあ……前から思ってたけどさ。
前回学科2位の玲磁はともかく、
俺とスエまで入れてトップ3総ナメって……
どう考えてもギャグだよな」
陶之介はペンをくるくる回しながら、
視線だけを皓に向けた。
「お前と並べられるのは不本意だが……
悪ガキ三人で総取りは、確かに世も末だな」
「お前、俺のこと嫌いすぎんだろ」
「事実だ」
「正直でよろしいね。はい百点」
……はいはい。
俺は二人を無視して、
教科書を机に軽く叩いた。
「はいー、雑談終了。
とりあえずトップ3を狙う話は忘れろ。
勉強に近道も裏技もねぇ」
二人を見る。
「皓。
お前はまず“文章を最後まで読む”ところからな」
「読むけど……途中で眠くなるんだよ」
「寝たら、その場で雷撃つからな。
自分で」
「鬼か?」
「自覚あってよかったな」
次。
「スエ。
お前は“問題文に書いてある数字を勝手に変えない”」
陶之介は冷めた目で言い返す。
「……変えてない。
“変わった”だけだ」
「それは“脳内で変換してる”って言うんだよ」
「そうか」
「そうだよ」
……まったく進んでる気がしない。
でも、不思議とやる気だけはある。
この空気、嫌いじゃなかった。
⸻
少し区切りをつけて、俺はペンを置いた。
「そういえばさ。
魅亜……火、克服したから」
皓は驚きもせず、にやっと笑う。
「マジか。
じゃあ決闘部で、まともに戦えんじゃん。
あいつの火、本来ヤバいだろ」
陶之介も腕を組み、目を細めた。
「……ようやく“本物”か。
逃げ腰の相手より、
抵抗してくる相手の方が面白い」
「言い方怖ぇんだよお前」
皓が肘で突く。
「でもまあ分かる。
今度対戦したら、俺ら燃やされんじゃね?」
俺は思わず笑った。
「あり得るな。
魅亜、魔力値だけなら三姉妹で一番えぐいし」
「……へえ」
陶之介の口元が、わずかに上がる。
「本気で楽しみになってきた」
⸻
皓が、何気なく言った。
「そういや夢威も、決闘部来てたぞ。
いつの間に入ったんだ、あいつ」
……は?
俺の手が止まった。
「……は?」
陶之介が淡々と頷く。
「入部届を出したらしい。
あの女子、気まぐれに見えて——
実際、気まぐれだな」
俺は思わず頭を抱えた。
「いやいやいや……。
夢威ってさ、
悪ガキとガリ勉の間だけじゃなくて……
合研部と決闘部まで行き来してんの?
移動範囲どうなってんだよ……」
皓が肩を揺らして笑う。
「知らね。
でも来た瞬間、國丸先輩が
“また増えたな”って嬉しそうだったぞ」
「國丸って誰だ?」
「剛持 國丸。
忍者みたいなやつ。見りゃ分かる」
「ふーん……まあいいか」
陶之介が静かに付け足す。
「夢威のあの風の直感……
決闘向きじゃねぇが、
回避能力だけは異常だ」
「合研部にもいて、決闘部にもいて……
あいつ、どこまで行く気なんだ」
「さあな。
“面白そう”ってだけで全部やってんだろ」
俺は、机に突っ伏した。
「……あの子、絶対猫だろ」
静かな学習室に、
悪ガキ三人分のため息と笑いが落ちた。




